六味丸(ろくみがん/六味地黄丸)|宋1119年『小児薬証直訣』(銭乙)の腎陰虚処方——のぼせ・手足のほてり・寝汗に効く6味を医師が解説

六味丸(ろくみがん/六味地黄丸)|宋1119年『小児薬証直訣』(銭乙)の腎陰虚処方——のぼせ・手足のほてり・寝汗に効く6味を医師が解説

60代です。加齢とともに手のひらのほてり・寝汗・のぼせ・足腰の弱りが出てきました。八味地黄丸は温めが強すぎるようで……六味丸を勧められました。

六味丸(ろくみがん)——正式には「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」は、宋代の小児科名医銭乙(せんいつ・1032-1113)の処方をもとに、没後に門人の閻孝忠が編纂した『小児薬証直訣』(1119年刊)に収められた処方——名前の通り「6つの生薬でできた地黄丸」で、八味地黄丸から桂皮・附子(温める2味)を抜いた基本形です。腎陰虚(潤いの不足・のぼせ・手足のほてり・寝汗・足腰の弱り)にビシッと合う、「補腎陰の代表方剤」。

30秒で要点

  • 六味丸は『小児薬証直訣』(宋・1119年・銭乙)収載
  • 生薬6味:地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮
  • 合う証は「腎陰虚=のぼせ+手足のほてり+寝汗+足腰弱り+口渇」
  • 効かせどころ:加齢に伴う潤い不足・のぼせ・寝汗・小児発育不良
  • ツムラ六味丸の効能・効果は「疲れやすくて尿量減少または多尿で、時に口渇があるものの次の諸症:排尿困難、頻尿、むくみ、かゆみ」。のぼせ・寝汗といった症状名は効能・効果には含まれません
  • 八味地黄丸から桂皮・附子(温める2味)を抜いた基本形
  • 甘草・麻黄・附子・大黄なし
  • 飲み方:白湯で溶かして温かく、1日3回・食前か食間
  • 副作用:地黄の胃もたれ・下痢(稀)
  • 妊娠中は主治医と相談

背景——「銭乙」と「地黄丸類」の系譜

六味丸を編み出した銭乙(せんいつ)は、宋代の名医で「小児科の医聖」とされる人物。『小児薬証直訣』は現存する中国最古の小児科専門書で、六味丸のほか瀉白散・導赤散など多くの名処方を残しました。

銭乙は、『金匱要略』の八味地黄丸(張仲景・約200年)を小児(陽気が旺盛)向けに桂皮・附子を抜いた「六味地黄丸」を作りました。これがのちに「地黄丸類(じおうがんるい)」という一大方剤群の基礎になります。

地黄丸類の系譜:

方剤六味丸を基準に対象
六味丸基本形(陰虚)のぼせ・寝汗
八味地黄丸+桂皮・附子(温める)冷え+腎虚(記事)
牛車腎気丸八味+牛膝・車前子下肢むくみ・しびれ(記事)
味麦地黄丸(保険適応外)六味+麦門冬・五味子肺陰虚+腎陰虚
杞菊地黄丸(保険適応外)六味+枸杞・菊花眼精疲労
知柏地黄丸(保険適応外)六味+知母・黄柏陰虚火旺

六味丸の6味

分類生薬量/日作用
三補地黄5g腎陰を補う(君薬)
山茱萸(さんしゅゆ)3g肝腎を補う
山薬(さんやく)3g脾を補う
三瀉沢瀉3g余分な水を排出
茯苓3g水を捌く
牡丹皮3g血の停滞を解消・虚熱を冷ます

「三補(補う3味)+三瀉(余分を捌く3味)」という左右対称の設計——補うだけでなく「補いすぎて滞らないよう捌く」のが六味丸の巧みなところ。中国医学の1000年前の設計思想の完成度の高さを示す名処方です。

八味地黄丸との違い——「温めるか、冷ますか」

項目六味丸八味地黄丸
桂皮なしあり
附子なしあり
温度感穏やか(冷やす向き)温める
対象のぼせ・手足のほてり・寝汗冷え・夜間頻尿・下肢弱り
体質陰虚(潤い不足)陽虚(温める力不足)
小児使える使えない(附子)

「のぼせ・熱っぽさ」なら六味丸、「冷え・寒がり」なら八味地黄丸——同じ地黄丸類でも真逆の証に合わせます。

現代の使いどころ

状況位置づけ
加齢に伴う潤い不足(陰虚)八味地黄丸で暑がる方に
更年期障害(のぼせ・寝汗型)加味逍遙散との使い分け
小児の発育不良古典的な小児科適応
夜尿症(虚熱型)桂枝加竜骨牡蛎湯との使い分け
慢性糸球体腎炎伝統的補助
口渇・粘膜乾燥(軽症)
慢性疲労(陰虚型)

副作用と注意

  • 地黄由来:稀に胃もたれ・下痢
  • 甘草・麻黄・附子・大黄非含有で比較的安全
  • 虚寒(冷え性)には合わない
  • 妊娠中は主治医と相談

当院の方針

  • 六味丸の処方に対応——陰虚型の潤い不足・のぼせを想定
  • のぼせ強なら六味丸、冷え強なら八味地黄丸
  • 妊娠中は主治医と相談
  • 数週間〜数か月で効果判定

よくある質問

八味地黄丸とどっちがいい?

「のぼせ・手足のほてり・寝汗」なら六味丸、「冷え・夜間頻尿・下肢弱り」なら八味地黄丸。

小児にも使える?

もともと銭乙の小児科書の処方——1歳超なら小児科で使えます。

効くのに何日?

数週間〜数か月で徐々に体感——じわっと整えるタイプ。

胃が弱いのですが

地黄で胃もたれが出ることあり——食後服用にする、量を減らす等の調整で対応可。

妊娠中は?

安全性は完全確立していない——主治医と相談を。

更年期の顔ののぼせに?

加味逍遙散との併用・使い分け——加味逍遙散が気鬱+イライラ主体、六味丸は陰虚+のぼせ・寝汗主体。

関連記事

まとめ

  • 六味丸は宋1119年『小児薬証直訣』(銭乙)の腎陰虚処方
  • 生薬6味(地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮)
  • 「三補+三瀉」の左右対称設計
  • 合う証は「腎陰虚=のぼせ+手足のほてり+寝汗+足腰弱り」
  • 八味地黄丸から桂皮・附子を抜いた基本形
  • 甘草・麻黄・附子・大黄非含有で比較的安全
  • 虚寒の方には合わない

この記事の一次情報

  • 銭乙『小児薬証直訣』(宋・1119年)
  • 張仲景『金匱要略』(後漢・約200年)—— 八味地黄丸の源
  • 大塚敬節・矢数道明『漢方診療医典』
  • ツムラ/クラシエ「六味丸エキス顆粒(医療用)添付文書」

※本記事は上記の古典・現代文献・添付文書に基づき、市井の視点でわかりやすく解説したものです。

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この記事の監修者

原 達彦
原 達彦梅田北オンライン診療クリニック 院長
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)を修了し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/公衆衛生修士(MPH)/産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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