呉茱萸湯(ごしゅゆとう)|『傷寒論』の片頭痛処方——冷え+吐き気型の頭痛に効く4味(トリプタン抵抗性にも)を医師が解説
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)|『傷寒論』の片頭痛処方——冷え+吐き気型の頭痛に効く4味(トリプタン抵抗性にも)を医師が解説

片頭痛持ちで、冷えと吐き気を伴います。手足が冷たく、頭痛の前に吐き気がひどい。トリプタンは効くけど月に何回も使いたくない——呉茱萸湯を勧められました。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は『傷寒論』・『金匱要略』両方に載る「冷え型頭痛+吐き気」の代表方剤——生薬わずか4味シンプル。「冷えて手足氷のよう+激しい頭痛+吐き気」という漢方が捉える片頭痛の典型的なパターンにビシッと合います。呉茱萸湯に反応する患者を選んで行われた国内の二重盲検試験(Odaguchi H et al. Curr Med Res Opin. 2006)で頭痛発作の予防効果が報告されており、日本の頭痛診療でも選択肢の1つとされています。
目次
30秒で要点
- 呉茱萸湯は『傷寒論』『金匱要略』両方収載
- 生薬わずか4味:呉茱萸・人参・生姜・大棗
- 合う証は「冷え+激しい頭痛+吐き気+手足冷え」
- 効かせどころ:片頭痛(冷え・嘔気型)・慢性頭痛・悪心・つわり
- Odaguchi 2006(Curr Med Res Opin)で発作予防効果の報告
- 甘草・麻黄・附子・大黄なし——比較的安全
- 飲み方:白湯で溶かして温かく、頭痛出現時に頓服 or 1日3回・食前
- 比較的副作用は少ないものの、呉茱萸による胃部不快感・悪心などが出ることがあります
- 妊娠中は主治医と相談
背景——「乾嘔、涎沫を吐し、頭痛」の描写
『傷寒論』厥陰病篇にこう記されています:
乾嘔、涎沫を吐し、頭痛する者は、呉茱萸湯これを主る
現代語で「空嘔吐して、透明な唾液(涎沫)を吐き、頭痛がする——呉茱萸湯」。「頭痛+透明の吐き気+冷え」という、片頭痛の典型的な発作を1800年前の医師が的確に捉えていた記述です。
『金匱要略』にも同様の記載があり、当時から「冷えて吐き気を伴う頭痛」の第一選択として使われてきました。日本でも片頭痛・冷えの頭痛の代表処方として長い使用実績があります。
呉茱萸湯の4味
| 生薬 | 量/日 | 主な作用 |
|---|---|---|
| 呉茱萸(ごしゅゆ) | 3g | 下焦を温める・鎮痛(君薬) |
| 人参 | 2g | 気を補う |
| 大棗 | 4g | 脾胃を補う |
| 生姜 | 1.5g | 胃を温める・悪心止め |
注目は呉茱萸(ごしゅゆ)——ミカン科ゴシュユの未熟果実で、非常に苦い生薬。エボジアミン・ルタエカルピンという有効成分が「温めて痛みを止める」働きをします。
たった4味のシンプル設計ながら、1800年間「片頭痛」に処方され続けてきた歴史的な名方です。
現代医学とつながる——トリプタン抵抗性への効果
- Odaguchi H et al. Curr Med Res Opin. 2006——呉茱萸湯レスポンダーを選別した二重盲検試験で、頭痛発作の予防効果を報告
- 基礎研究:エボジアミン等がセロトニン受容体・カルシウムチャネルに作用し、片頭痛様の血管拡張・痛覚過敏を抑制
- 日本頭痛学会「頭痛の診療ガイドライン2021」にも予防薬・急性期薬の1選択肢として記載
片頭痛治療での位置づけ
| ステップ | 薬 | 特徴 |
|---|---|---|
| 急性期(軽症) | カロナール・NSAIDs | 1st line |
| 急性期(中〜重症) | トリプタン系(イミグラン等) | セロトニン作動 |
| 急性期(新世代) | レイボー(ラスミジタン) | 5-HT1F作動 |
| 予防(月2回超) | β遮断薬・トピラマート・抗CGRP抗体 | 西洋医学 |
| 予防・急性期補助 | 呉茱萸湯(冷え・吐き気型) | 漢方の選択肢 |
頭痛系漢方 使い分け
| 方剤 | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 呉茱萸湯 | 冷え+激痛+吐き気 | 片頭痛の定番 |
| 釣藤散 | 高血圧+朝の頭痛 | 鎮肝(記事) |
| 五苓散 | 水滞型頭痛(雨天悪化) | 水を捌く(記事) |
| 桂枝人参湯 | 虚寒型頭痛 | 冷え+胃弱 |
| 川芎茶調散 | 風邪伴う頭痛 | 急性期 |
| 半夏白朮天麻湯 | 冷え+めまい+嘔気 | (記事) |
現代の使いどころ
| 状況 | 位置づけ |
|---|---|
| 片頭痛(冷え・嘔気型) | ガイドライン推奨レベル |
| トリプタン抵抗性の片頭痛 | 専用のRCTはなし(Odaguchi 2006 は慢性頭痛のレスポンダーが対象)——経験的に補助として |
| 慢性頭痛(冷え型) | 予防的にも |
| 妊娠中のつわり(頭痛あり) | 産科と相談 |
| 月経関連頭痛 | 当帰四逆加呉茱萸生姜湯との使い分け |
| 小児の片頭痛 | 小児科での判断 |
副作用と注意
- 呉茱萸の苦味で稀に胃部不快感
- 甘草・麻黄・附子・大黄非含有で比較的安全
- 妊娠中は主治医と相談
当院の方針
- 呉茱萸湯の処方に対応——冷え+吐き気型の片頭痛を想定
- 頓服でも予防でも使える
- トリプタン・レイボー・NSAIDsとの併用相談可
- 月10日以上の頭痛は薬物乱用頭痛のリスク(ロキソニン記事)
- 重症・頻回発作は脳神経内科での予防薬(抗CGRP抗体等)検討
よくある質問
-
トリプタンとどう使い分ける?
-
トリプタン=急性期の即効性、呉茱萸湯=予防的+補助+冷え型頭痛の急性期。トリプタン抵抗性やトリプタン使用を減らしたい方に呉茱萸湯。
-
レイボー(ラスミジタン)とどう使い分ける?
-
レイボーは西洋医学の新世代急性期薬——両者は併用可能で、目的が違います。
-
片頭痛予防薬になる?
-
毎日服用で予防効果——月に頭痛が数回以上ある方に。
-
妊娠中の頭痛に使えますか?
-
安全性は完全確立していないが、比較的リスクの低い生薬構成——産科と相談を。
-
効くのに何分?
-
頓服で30分〜1時間で効果を感じる方が多い。
-
カロナールと併用できる?
-
併用可——相互作用なし。
-
副作用は?
-
苦味による胃部不快感が稀——甘草・麻黄非含有でリスク低い。
-
当帰四逆加呉茱萸生姜湯とどう違う?
-
呉茱萸湯=頭痛・吐き気主体、当帰四逆加呉茱萸生姜湯=しもやけ・冷えの手足痛主体(記事)。
関連記事
まとめ
- 呉茱萸湯は『傷寒論』『金匱要略』両方収載の片頭痛処方
- 生薬わずか4味(呉茱萸・人参・生姜・大棗)
- 合う証は「冷え+激しい頭痛+吐き気+手足冷え」
- Odaguchi 2006 Curr Med Res Opin:呉茱萸湯に反応した人に絞った二重盲検試験で、頭痛の起きた日数が減少(トリプタン抵抗性片頭痛を対象にした試験ではありません)
- 甘草・麻黄・附子・大黄非含有で比較的安全
- 頓服でも予防でも使える
- 妊娠中は主治医と相談
この記事の一次情報
- 張仲景『傷寒論』『金匱要略』(後漢・約200年)
- Odaguchi H, et al. The efficacy of goshuyuto, a typical Kampo (Japanese herbal medicine) formula, in preventing episodes of headache. Curr Med Res Opin. 2006;22(8):1587-1597
- 日本頭痛学会「頭痛の診療ガイドライン2021」
- 大塚敬節・矢数道明『漢方診療医典』
- ツムラ/クラシエ「呉茱萸湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
※本記事は上記の古典・現代文献・添付文書に基づき、市井の視点でわかりやすく解説したものです。
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この記事の監修者

- 梅田北オンライン診療クリニック 院長
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【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)を修了し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。
【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/公衆衛生修士(MPH)/産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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