大柴胡湯(だいさいことう)|『傷寒論』の柴胡剤の頂点——胆嚢炎・脂質異常症・実証の便秘に効く8味を医師が解説

大柴胡湯(だいさいことう)|『傷寒論』の柴胡剤の頂点——胆嚢炎・脂質異常症・実証の便秘に効く8味を医師が解説

健診で肝機能とコレステロールが高めで、便秘とお腹の張り、みぞおちのつかえがあります。がっしり体型の40代男性です。大柴胡湯を勧められましたが?

大柴胡湯(だいさいことう)は『傷寒論』の中でも「体力充実者の実証」向けの代表方剤——「がっしり体型+みぞおちのつかえ+便秘+胸脇苦満」にビシッと合う8味処方です。近年は脂質異常症・胆嚢炎・胆石症・メタボリック症候群の補助としても頻用され、日本発の研究で脂質改善作用が示された珍しい漢方の1つ。四逆散→小柴胡湯→大柴胡湯という「柴胡剤の実証系」の頂点にあたる1剤です。

30秒で要点

  • 大柴胡湯は『傷寒論』(後漢200年)収載の実証方剤
  • 生薬8味:柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・芍薬・枳実・大黄
  • 合う証は「がっしり体型+胸脇苦満+便秘+腹満+みぞおちつかえ」
  • 効かせどころ:胆嚢炎/胆石・脂質異常症・便秘+肥満・慢性肝疾患・自律神経失調(実証)
  • 「小柴胡湯+大黄・枳実」の強化版——四逆散派生の頂点
  • 山本ら 2000等で脂質改善のエビデンス
  • 飲み方:白湯で溶かして温かく、1日3回・食前か食間
  • 副作用:大黄の下痢・柴胡の間質性肺炎(稀)・肝機能異常
  • 虚弱な方・高齢者・下痢しやすい方は慎重に。妊婦には投与しないことが望ましいとされています(添付文書上「禁忌」ではありません)

大柴胡湯の物語——「実証の柴胡剤」の頂点

『傷寒論』太陽病下篇にこう記されています:

太陽病、過経十余日、反って二三たびこれを下し、後四五日、柴胡証仍お在らば、まず小柴胡湯を与う。……もし柴胡湯証、下ろす後、心下満して硬痛する者は、大柴胡湯にてこれを下すべし

要約すると「小柴胡湯の証(胸脇苦満・微熱・食欲低下)に加えて、便秘+みぞおち硬痛」まで進んだ実証の状態——大柴胡湯を用いよ。

柴胡剤4本柱の位置関係を整理すると:

方剤対象特徴
四逆散ストレス性胃腸疏肝薬の元祖(記事)
小柴胡湯こじれた風邪半表半裏の少陽病
柴胡桂枝湯小柴胡+桂枝湯虚弱型のこじれ風邪
大柴胡湯実証+便秘+胆嚢柴胡剤の頂点
柴胡加竜骨牡蛎湯神経過敏+動悸精神症状
柴胡桂枝乾姜湯虚寒+寝汗虚証(記事)

大柴胡湯だけ「大黄と枳実」が加わって「攻める柴胡剤」になっているのが特徴——体力充実者の便秘+胆嚢炎+メタボの狙い撃ちに使えます。

大柴胡湯の8味

生薬量/日主な作用
柴胡6g肝を疏通・熱を透散(君薬)
黄芩3g熱を冷ます
半夏4g痰を捌く・悪心止め
生姜1g胃を温める
大棗3g脾胃を補う
芍薬3g血を養う・鎮痙
枳実2g気を降ろす・腸を通じる
大黄1g便を通じ熱を下ろす

特徴的なのは「柴胡6g(多量)+大黄1g+枳実2g」——柴胡剤のなかでも大黄を含む数少ない処方で、上(みぞおち)の熱を冷ましながら下(便通)を通じる、実証を攻める設計になっています。

「小柴胡湯(人参・甘草あり)→ 大柴胡湯(人参・甘草を抜き、枳実・大黄を加えた)」——虚弱者向けの調和成分を抜いて、実証者向けの攻める成分を加えた「進化型」と考えると理解しやすい。

現代の使いどころ

状況位置づけ
胆嚢炎・胆石症(無症状〜軽症)右脇腹の圧痛・実証の胆嚢疾患
脂質異常症(メタボ型)スタチン等と併用も
便秘+腹満(実証)大黄含有
慢性肝疾患(非C型)肝機能改善補助
自律神経失調(実証)ストレス性の胃腸・不眠
高血圧(実証)釣藤散との使い分け
更年期障害(実証)加味逍遙散で効かない実証型

エビデンス

  • 大柴胡湯の脂質改善作用については国内から報告がありますが、確立したエビデンスとまでは言えません
  • Muraoka S et al. 高血圧+メタボリック症候群への効果報告
  • 基礎研究:柴胡サポニンが肝機能改善・脂質代謝改善
  • 日本東洋医学会EBM委員会でも脂質異常症・胆嚢疾患への使用が紹介

副作用と注意

  • 大黄由来:下痢・大腸メラノーシス(長期)
  • 柴胡由来:間質性肺炎(稀)・肝機能異常
  • 1996年の緊急安全性情報(当時の厚生省)は小柴胡湯に対するもので、インターフェロン併用・肝硬変・肝癌などの禁忌も小柴胡湯の添付文書に設定されています。大柴胡湯には同じ禁忌はありませんが、肝疾患のある方は主治医とご相談ください
  • 甘草は含まない——偽アルドステロン症リスク低い
  • 妊娠中は原則使わない(大黄)
  • 虚弱・高齢者は避ける

当院の方針

  • 大柴胡湯の処方に対応——実証の胆嚢疾患・脂質異常症・便秘型メタボを想定
  • 初診の脂質異常症・胆嚢疾患は近隣内科で診断確定後に当院で継続を
  • C型肝炎・肝硬変・肝癌の方には処方しません
  • スタチン等の脂質治療は主治医と情報共有
  • 妊娠中・虚弱・高齢者は避ける
  • 乾いた咳・息切れが出たら間質性肺炎を疑って中止・受診
  • 肝機能を年1回近隣で

よくある質問

小柴胡湯とどう違う?

小柴胡湯(人参・甘草あり)は虚実中間、大柴胡湯(大黄・枳実あり)は実証+便秘。体力充実で便秘があるなら大柴胡湯。

脂質異常症に本当に効きますか?

総コレステロール・LDLの低下を示した報告はありますが、スタチンほど強力ではなく、実証体質+便秘+メタボの方の補助的位置づけ。主治医と相談を。

胆石に効く?

胆嚢炎の症状緩和・胆石症の合併症状に補助的に——胆嚢摘出等の外科的判断は消化器外科で。

C型肝炎ですが飲めますか?

飲めません——1996年の小柴胡湯間質性肺炎死亡例以来、C型肝炎・肝硬変・肝癌の柴胡剤は禁忌。

妊娠中は?

大黄含有のため原則使わない。

効くのに何日?

数週間で徐々に体感——じわっと整えるタイプ。

副作用は?

大黄の下痢と柴胡の間質性肺炎に注意——長期使用時は肝機能検査を。

メタボの人がみんな飲めますか?

「がっしり体型・便秘・胸脇苦満・みぞおちつかえ」の実証体質限定——虚弱・痩せの方には合いません。

関連記事

まとめ

  • 大柴胡湯は『傷寒論』の実証処方——柴胡剤の頂点
  • 生薬8味(柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・芍薬・枳実・大黄)
  • 合う証は「がっしり体型+胸脇苦満+便秘+胆嚢疾患+メタボ」
  • 脂質異常症・胆嚢炎・慢性肝疾患・実証の便秘に
  • 1996年の緊急安全性情報(厚生省)と、これらの禁忌が設定されているのは小柴胡湯。大柴胡湯の添付文書に同じ禁忌はありません
  • 虚弱・妊娠中は避ける

この記事の一次情報

  • 張仲景『傷寒論』(後漢・約200年)
  • 厚生省 緊急安全性情報「小柴胡湯投与時における間質性肺炎」1996年
  • 大塚敬節・矢数道明『漢方診療医典』
  • ツムラ/クラシエ「大柴胡湯エキス顆粒(医療用)添付文書」

※本記事は上記の古典・現代文献・添付文書に基づき、市井の視点でわかりやすく解説したものです。個別の処方判断は主治医とご相談ください。

\ 来院不要・スマホで完結 /

このお薬の相談は、オンライン診療で

スマホで診察を受ける 初めての方|初診 1,000円〜(保険適用) いつものお薬を続ける 2回目以降の方|再診 450円〜・最短翌日着

料金と受診の流れを1分で確認できます

この記事の監修者

原 達彦
原 達彦梅田北オンライン診療クリニック 院長
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)を修了し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/公衆衛生修士(MPH)/産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
詳しいプロフィールはこちら