温経湯(うんけいとう)|『金匱要略』の婦人科名処方——「冷え+手のひらほてり+唇乾燥」に効く12味を医師が解説
温経湯(うんけいとう)|『金匱要略』の婦人科名処方——「冷え+手のひらほてり+唇乾燥」に効く12味を医師が解説

足はキンキンに冷えるのに、なぜか手のひらだけほてり、唇はカサカサに乾いてしまう——不思議な症状です。温経湯が合うと聞きましたが、どんな薬ですか?

温経湯(うんけいとう)は『金匱要略』の名処方——「冷えているのに一部だけ熱っぽい」という漢方らしい「寒熱錯雑」の証にビシッと合う1剤です。「手足冷え+手のひら/足の裏のほてり+唇の乾き+月経不順」の3点セットが揃えば温経湯を疑うのが定石。生薬12味の大処方で、婦人科・不妊治療・唇や皮膚の乾燥にも幅広く用いられます。
30秒で要点
- 温経湯は『金匱要略』(後漢・張仲景)婦人雑病篇収載
- 生薬12味:呉茱萸・当帰・芍薬・川芎・人参・桂皮・阿膠・牡丹皮・生姜・甘草・半夏・麦門冬
- 合う証は「下半身の冷え+手のひら/足の裏のほてり+唇の乾燥+月経不順」(寒熱錯雑)
- 効かせどころ:月経不順・不妊・冷え・皮膚/唇の乾燥・凍瘡(しもやけ)
- 婦人科3大処方が合わない方の選択肢
- 甘草含有——他甘草含有漢方併用に注意
- 飲み方:白湯で溶かして温かく、1日3回・食前か食間
- 甘草2g含有のため、偽アルドステロン症・ミオパチーに注意(重大な副作用として設定されています)
背景——「経を温める」名処方
『金匱要略』婦人雑病篇にはこう記されています:
婦人、年五十所(ばかり)にして下利、数十日已まず、暮れに即ち発熱し、少腹裏急し、腹満し、手掌煩熱し、唇口乾燥するは、何ぞや。師曰く、この病は帯下に属す。何を以てこれを故とせん。かつて半産(=流産)ありて、瘀血在少腹して去らざるを以てなり。温経湯これを主る
現代語で「50歳ぐらいの女性、下痢が数十日続き、夕方になると熱っぽい、下腹がひきつって張り、手のひらがほてり、唇や口が乾く——これは何ですか?」「これは帯下(婦人科の病態)に属します。以前に流産があり、瘀血が下腹に残ってしまったからです。温経湯を用いなさい」。
現代でいう「更年期近くの女性の複合婦人科症状」の描写そのもの——古人の観察の細やかさに驚かされます。
「温経」=「経(月経の通り道=胞宮)を温める」の意——冷えて滞った婦人科の循環を、温めて巡らせる、というコンセプトです。
温経湯の12味
| 生薬 | 量/日 | 分類 | 主な作用 |
|---|---|---|---|
| 呉茱萸(ごしゅゆ) | 1-3g | 温裏 | 下焦を温める・鎮痛 |
| 当帰 | 2-3g | 補血 | 血を補う |
| 芍薬 | 2g | 柔肝 | 血を養い痙攣を緩める |
| 川芎 | 2g | 活血 | 血を巡らせる |
| 桂皮 | 2g | 温裏 | 温める |
| 牡丹皮 | 2g | 活血 | 瘀血を解消 |
| 人参 | 2g | 補気 | 気を補う |
| 甘草 | 2g | 調和 | 諸薬の調和 |
| 半夏 | 3-4g | 化痰 | 痰を捌く |
| 麦門冬 | 4-10g | 養陰 | 肺胃の陰を潤す |
| 阿膠(あきょう) | 2g | 補血止血 | 血を補う・止血 |
| 生姜 | 1-2g | 温胃 | 胃を温める |
12味という大処方——「温める(呉茱萸・桂皮・生姜)」+「血を補い巡らす(当帰・川芎・芍薬・牡丹皮・阿膠)」+「気を補う(人参・甘草)」+「陰を潤す(麦門冬)」+「痰を捌く(半夏)」を1剤で担う多面的設計です。
阿膠はロバの皮を煮詰めて作るゼラチン様の物質——中国伝統医学で「血を補う」代表生薬で、非常に高価です。日本の医療用エキスにも配合されています。
呉茱萸はミカン科ゴシュユの未熟果実——独特の苦みがあり、下焦(下腹部)を温める代表生薬です。
証——「寒熱錯雑」
| 分類 | 温経湯の証 |
|---|---|
| 気血水 | 血虚+瘀血+陰虚+寒 |
| 体格 | 痩せ〜中肉 |
| 体力 | 虚〜中 |
| 特徴的な訴え | 下半身冷え+手足のほてり(手掌煩熱)+唇の乾燥(口唇乾燥)・月経不順・皮膚乾燥・下痢傾向 |
「冷えているのに一部だけ熱っぽい」——この不思議な寒熱錯雑が温経湯のトレードマークです。
現代の使いどころ
| 状況 | 位置づけ |
|---|---|
| 月経不順 | 血虚+瘀血型に |
| 不妊症 | 冷え・血流障害改善目的 |
| 更年期障害(冷え+のぼせ型) | 加味逍遙散で合わない方に |
| 皮膚・唇の乾燥 | 冬期の乾燥肌に |
| 凍瘡(しもやけ) | 伝統的に |
| 慢性下痢(冷え型) |
婦人科漢方の位置関係
| 方剤 | 特徴 |
|---|---|
| 当帰芍薬散 | 痩せ・色白・冷え・むくみ(記事) |
| 加味逍遙散 | 中肉・イライラ・のぼせ(記事) |
| 桂枝茯苓丸 | がっしり・のぼせ・下腹の張り(記事) |
| 温経湯 | 冷え+手のひらほてり+唇乾燥(寒熱錯雑) |
| 女神散 | 血の道症・のぼせ・めまい・産前産後の神経症 |
| 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 | しもやけ・手足の冷え主体(記事) |
副作用
- 甘草由来:偽アルドステロン症(浮腫・低K・高血圧)
- 呉茱萸由来:稀に胃部不快感
- 当帰・川芎由来:稀に胃もたれ
こんな方は注意
- 他の甘草含有漢方併用
- 妊娠中は主治医と相談
- 重い高血圧
- 胃弱(多味処方で胃もたれの可能性)
当院の方針
- 温経湯の処方に対応——「下半身冷え+手のひらほてり+唇乾燥」型の婦人科症状を想定
- 婦人科3大処方が合わない方の選択肢に
- 不妊治療中の方は婦人科と情報共有
- 3〜6か月で効果判定
- 甘草含有他漢方との併用は避ける
よくある質問
-
当帰芍薬散とどっちがいい?
-
「手のひらのほてり・唇の乾燥」があれば温経湯、なければ当帰芍薬散——両方冷えメインですが、寒熱錯雑のサインで温経湯を選びます。
-
妊活中でも飲めますか?
-
不妊治療でよく用いられる——冷え・血流改善で子宮内膜環境を整える狙い。婦人科と情報共有を。
-
妊娠したら?
-
妊娠判明後は原則中止し、主治医と相談を。
-
皮膚の乾燥にも効きますか?
-
「唇・皮膚の乾燥」は温経湯の証の一部——冬期の乾燥肌の内側からのケアとして使うことも。
-
しもやけに効きますか?
-
冷え+血虚のしもやけには効果あり——ただし、しもやけ主体なら当帰四逆加呉茱萸生姜湯の方が的確なことも。
-
効くのに何日?
-
数週間〜2か月で徐々に体感——じわっと整えるタイプ。
-
男性が飲んでも大丈夫?
-
女性向けの処方ですが、寒熱錯雑の証を持つ男性でも用いられることがあります——主治医の判断で。
-
阿膠って高価と聞きました
-
生薬レベルでは高価ですが、医療用エキスは保険適応で処方可——市販の煎じ薬になると高価になります。
関連記事
まとめ
- 温経湯は『金匱要略』の婦人科名処方
- 生薬12味の大処方
- 合う証は「下半身冷え+手のひらほてり+唇乾燥」(寒熱錯雑)
- 月経不順・不妊・皮膚乾燥・凍瘡に
- 婦人科3大処方が合わない方の選択肢
- 甘草の副作用に注意
- 妊娠したら中止
この記事の一次情報
- 張仲景『金匱要略』(後漢・約200年)婦人雑病篇
- 大塚敬節・矢数道明『漢方診療医典』
- 日本東洋医学会「臨床漢方処方応用マニュアル」
- ツムラ/クラシエ「温経湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
※本記事は上記の古典・現代文献・添付文書に基づき、市井の視点でわかりやすく解説したものです。個別の処方判断は主治医とご相談ください。
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この記事の監修者

- 梅田北オンライン診療クリニック 院長
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【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)を修了し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。
【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/公衆衛生修士(MPH)/産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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