下痢の話 Vol.3|過敏性腸症候群(IBS)の診断・低FODMAP食・治療薬を医師が解説

通勤の電車の中で急にお腹が痛くなって、駅でトイレに駆け込む…これがほぼ毎朝です。検査では異常なしと言われましたが、辛くて出勤がストレスです。

お話の様子だと過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)、特に下痢型(IBS-D)の可能性が高そうです。
IBSは「命に関わらないが生活の質を大きく下げる」病気で、日本の有病率は約10%。特に若年〜中年に多く、通勤・通学・外出が辛くなる方もたくさんいらっしゃいます。
Vol.3では、IBSの診断・タイプ別の特徴・低FODMAP食・治療薬を整理します。下痢シリーズ最終回です。
目次
IBSってどんな病気?
- 腸の動きと知覚過敏が中心の機能性疾患(内視鏡で異常なし)
- 日本人の約10%が該当(10人に1人)
- 20〜40代の発症が多く、女性にやや多い
- 命に関わる病気ではないが、生活の質(QOL)を大きく下げる
- 完治は難しいがうまく付き合えば普通の生活を維持できる
Rome IV診断基準(国際的な診断基準)
IBSは下記の基準を満たすと診断されます(赤旗症状がないことが前提)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | 過去3か月にわたって、少なくとも週1日以上の腹痛 |
| 症状(うち2つ以上) | ① 排便と関連(排便で楽になるor悪化する)/② 排便回数の変化を伴う/③ 便の形状の変化を伴う |
| 発症 | 診断の6か月以上前から症状あり |
IBSの4つのサブタイプ
| タイプ | 便の特徴 | 割合 |
|---|---|---|
| IBS-D(下痢型) | 25%以上が軟便・水様便、便秘は25%未満 | 男性に多い |
| IBS-C(便秘型) | 25%以上が硬便・兎糞状、下痢は25%未満 | 女性に多い |
| IBS-M(混合型) | 下痢と便秘が25%ずつ以上 | — |
| IBS-U(分類不能型) | 上記いずれにも当てはまらない | — |
便の硬さ・形はブリストル便性状スケール(タイプ1〜7)を使って自己評価できます。
IBSが起こる仕組み(脳腸相関)
| 機序 | 内容 |
|---|---|
| 脳腸相関(Brain-Gut Axis) | 脳と腸は自律神経・ホルモン・腸内細菌を介して双方向に影響 |
| 内臓知覚過敏 | 腸の動きや張りを「普通より強い痛み」として感じる |
| 腸蠕動の異常 | 早すぎる蠕動で下痢、遅すぎて便秘 |
| 腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis) | 善玉菌と悪玉菌のバランスの乱れ |
| 感染後IBS | 胃腸炎の後にIBSが続くケース(PI-IBS) |
| ストレス・不安・うつ | 症状を悪化させ、症状がさらにストレスになる悪循環 |

「気のせい」「ストレスのせい」と言われがちですが、IBSは明確な生理学的メカニズムを持つ病気です。
本人の弱さや甘えではないことを、ぜひご理解ください。
IBS-D(下痢型)の典型像
- 朝の通勤・通学前にお腹が痛くなる
- 食後すぐに下痢になる(胃結腸反射の亢進)
- 緊張する場面(試験・会議・面接)で症状が出る
- 外出時にトイレが気になる「電車に乗れない」「映画が辛い」
- 排便後はスッキリして症状が消える
- 夜間や眠っているときは症状が出ない(これが器質的疾患との大きな違い)
治療の柱:① 生活習慣の見直し
- 規則正しい食事(朝食を抜かない、夜遅く食べない)
- 睡眠を整える(7時間前後、同じ時間に寝起き)
- 運動(週150分の有酸素、歩行・ヨガ・水泳など)
- 禁煙・節酒(アルコールは腸を刺激)
- カフェイン・刺激物を控える
- ストレスマネジメント(瞑想・深呼吸・カウンセリング)
治療の柱:② 食事療法(低FODMAP食)
FODMAP(フォドマップ)は小腸で吸収されにくい発酵性糖類の総称。これがIBSの症状を悪化させることが分かっています。
| FODMAPの中身 | 例 |
|---|---|
| Fermentable(発酵性) | — |
| Oligosaccharides(オリゴ糖) | 小麦、玉ねぎ、にんにく、豆類 |
| Disaccharides(二糖類) | 乳糖(牛乳、ヨーグルト) |
| Monosaccharides(単糖類) | 果糖過剰(りんご、はちみつ、加工食品の異性化糖) |
| And | — |
| Polyols(ポリオール/糖アルコール) | キシリトール、ソルビトール、マンニトール |
低FODMAP食の進め方
| ステップ | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| ① 制限期 | 2〜6週間 | 高FODMAP食品をすべて避ける |
| ② 再導入期 | 6〜8週間 | 1種類ずつ少量から再導入して反応を確認 |
| ③ 個別化 | 長期 | 自分の「合わない食材」だけを避ける |
| 注意 | — | 栄養バランス維持のため管理栄養士の指導が望ましい。長期の極端な制限は避ける |
高FODMAP食品(控えたい)/低FODMAP食品(OK)の例
| カテゴリ | 高FODMAP(控える) | 低FODMAP(OK) |
|---|---|---|
| 穀類 | 小麦、ライ麦、大麦のパン・パスタ | 米、玄米、米麺、グルテンフリーパン |
| 野菜 | 玉ねぎ、にんにく、ねぎ、アスパラ、ブロッコリー | ほうれん草、なす、トマト、にんじん、きゅうり、ピーマン |
| 果物 | りんご、なし、すいか、マンゴー、さくらんぼ | バナナ(青め)、オレンジ、ぶどう、いちご、キウイ |
| 乳製品 | 牛乳、ヨーグルト、アイス、軟らかいチーズ | ラクトースフリー牛乳、ハードチーズ(チェダー等)、豆乳 |
| 豆類 | 大豆、ひよこ豆、レンズ豆 | 豆腐(絹より木綿)、テンペ |
| 甘味料 | はちみつ、果糖ブドウ糖液糖、キシリトール、ソルビトール | メープルシロップ、ステビア、砂糖(少量) |
| 飲料 | りんごジュース、ハーブティーの一部 | 水、お茶、コーヒー(適量) |

低FODMAP食でIBS患者の約7割で症状が改善するというエビデンスがあります。
ただし制限期は栄養が偏りやすいので、2〜6週間で区切って再導入することが大切。長期の極端な制限はかえって腸内環境を悪化させます。
治療の柱:③ 薬物療法(IBS-D 中心)
| カテゴリ | 代表薬 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 整腸剤 | ビオフェルミン、ミヤBM、ラックビーR | どのタイプにもまず使う |
| 高分子重合体 | コロネル、ポリフル(ポリカルボフィル) | 便を整える。下痢・便秘どちらにも |
| 5-HT3拮抗薬 | イリボー(ラモセトロン) | IBS-Dの第一選択。男女別の用量設定あり |
| 止痢薬 | ロペラミド(ロペミン) | 頓用。連用は避ける |
| 消化管運動調節薬 | セレキノン(トリメブチン) | 下痢・便秘どちらにも |
| 漢方 | 桂枝加芍薬湯、大建中湯、半夏瀉心湯 | 体質に応じて |
| 抗うつ薬(少量) | 三環系・SSRI | 症状+不安・抑うつが強い時に専門医で |
「イリボー(ラモセトロン)」について
- 日本で開発されたセロトニン5-HT3受容体拮抗薬
- 腸の動きと知覚過敏を抑え、IBS-Dの腹痛と下痢を改善
- 男性:5μg/日、女性:2.5μg/日(半量から開始するのが基本)
- 副作用:便秘が出やすい(量を調整)
- 効果実感は1〜2週間
- 長期効果が確認されており、必要に応じて継続可能
当院での過敏性腸症候群(IBS-D)対応
- 赤旗症状(血便・体重減少・夜間症状・50歳以上の新規発症など)がない方で、すでに対面の消化器内科で検査済みの方の継続処方に対応
- 初回処方:整腸剤、コロネル、イリボー、漢方、頓用ロペラミドなど
- 赤旗症状がある方は、まず対面の消化器内科で大腸内視鏡を含む精査をお受けください(Vol.2参照)
- 採血や内視鏡フォローは当院では行えません
- 低FODMAP食の進め方、生活指導もオンライン診療で相談可能
処方が確定すると、薬局から服薬指導のお電話をしたうえで宅薬便(ポスト投函)でお薬をお送りします。最短で翌日にお手元に届きますが、薬局の服薬指導の枠の状況によっては、お電話やお届けが翌日にずれ込むこともあります。あらかじめご了承ください。
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スマホで診察を受ける 初めての方|初診 1,000円〜(保険適用) いつものお薬を続ける 2回目以降の方|再診 450円〜・最短翌日着料金と受診の流れを1分で確認できます
よくある質問
-
「ストレスのせい」と言われましたが、本当ですか?
-
ストレスは症状の引き金や悪化因子ではありますが、原因のすべてではありません。
腸の知覚過敏、腸内細菌、腸蠕動の異常など、生理学的なメカニズムが背景にあります。
「気のせい」「気合が足りない」と片付けず、ちゃんと治療すれば改善する病気です。
-
低FODMAP食を一生続けるの?
-
いいえ。制限期は2〜6週間で十分。その後再導入して、自分の「合わない食材」だけを避けるのが目標です。
長期の極端な制限はむしろ腸内細菌叢を悪化させるとされています。
-
整腸剤・乳酸菌・ヨーグルトは効きますか?
-
効く方と効かない方がいます。多くのIBS患者で軽度〜中等度の改善が報告されています。
副作用がほぼないので、2〜4週間試してみる価値はあります。
低FODMAP食ではヨーグルトはNG(乳糖が多い)。ラクトースフリーヨーグルトなら選択肢。
-
過敏性腸症候群は治りますか?
-
完治は難しいですが、うまく付き合いながら症状を最小化することは十分可能です。
生活習慣、食事、薬を組み合わせて、外出や通勤・通学・仕事に支障がない状態を目指します。
症状が完全に消える時期と、悪化する時期を繰り返す方が多いので、長期的視点が大切。
-
運動するとお腹が緩くなるんですが
-
運動誘発性下痢は実は一般的で、ランナーの半数以上が経験しています。
運動2時間前は食事を控える、運動前後の水分を見直す、低FODMAP食を試すなどで対処できます。
激しい運動の前のロペラミドを医師相談のうえ頓用するのも一案。
-
うつ・不安と合併していますが、どうしたら?
-
IBSと不安・抑うつは双方向に悪化させ合う関係。両方の治療が必要なことがあります。
少量の抗うつ薬(三環系やSSRI)が、IBSと不安の両方に効くケースがあり、消化器内科や精神科で相談する価値があります。
当院では精神科専門治療(抗うつ薬の新規導入等)は行いません。対面の心療内科・精神科をご検討ください。
-
IBSと食物アレルギーは違うの?
-
はい、別の疾患です。
食物アレルギーはIgE抗体を介した免疫反応で、じんましん・呼吸困難・アナフィラキシーが特徴。
IBS/食物不耐症は免疫反応ではなく、消化吸収や腸の反応の問題で、下痢・腹痛・膨満感が中心。
採血のアレルギー検査が陰性でも食事で下痢する方はIBSや食物不耐症のことが多いです。
-
「電車に乗るのが怖い」レベルです
-
症状が不安や予期不安に発展するケースは少なくありません。
対策:① イリボー+頓用ロペラミドで身体症状を抑える、② トイレを把握できる経路を選ぶ、③ 認知行動療法(CBT)、④ 不安が強ければ精神科・心療内科の併診
辛い時期は無理せず、医療と相談しながら一歩ずつ慣らしていきましょう。
もう少し詳しく
ブリストル便性状スケール
便の硬さ・形を7段階で評価する国際的なツール。
タイプ1:硬いコロコロ便(便秘)
タイプ2:硬い兎糞便
タイプ3:表面にヒビが入った便
タイプ4:滑らかで柔らかい便(理想)
タイプ5:柔らかい半固形便
タイプ6:泥状便
タイプ7:水様便(下痢)
自分の便を観察して記録するとIBSのタイプ判定や薬の効果評価に役立ちます。
感染後IBS(PI-IBS)について
胃腸炎の後に発症するIBSを「PI-IBS」と呼びます。
腸炎後の数か月〜数年間、腸の知覚過敏や蠕動異常が続くことがあり、特にカンピロバクター、サルモネラ感染後に多い。
通常のIBSと治療は同じですが、時間とともに改善することが期待できます。
腸内細菌叢とプロバイオティクス
IBS患者では腸内細菌叢の多様性低下や特定菌種の偏りが報告されています。
プロバイオティクス(生きた善玉菌:ビフィズス菌、乳酸菌)は一部のIBS患者で症状改善。
プレバイオティクス(善玉菌のエサ:食物繊維、オリゴ糖)は逆にIBS-Dを悪化させることも(FODMAPに該当)。
万人に効くわけではないので、2〜4週間の試行がおすすめです。
SIBO(小腸内細菌異常増殖)との関係
SIBO(Small Intestinal Bacterial Overgrowth)は小腸に大量の細菌が増殖する状態で、IBS症状と重なります。
呼気水素テストで診断、リファキシミンなどの抗菌薬で治療。
通常のIBSとは別概念ですが、IBSの一部はSIBOが関与していると考えられています。
参考文献・情報源
- 日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 - 過敏性腸症候群(IBS)」
- Lacy BE, et al. Bowel Disorders. Gastroenterology 2016 (Rome IV).
- Halmos EP, et al. A diet low in FODMAPs reduces symptoms of irritable bowel syndrome. Gastroenterology. 2014;146:67-75.
- イリボー錠 添付文書(アステラス製薬)
- コロネル錠/細粒 添付文書(あすか製薬)
まとめ
- IBSは機能性疾患(命に関わらないが生活の質を下げる)
- 赤旗症状がないことが前提(あればVol.2参照)
- 治療は生活習慣+食事(低FODMAP)+薬(イリボー、コロネル等)の3本柱
- イリボーはIBS-Dの第一選択薬(男性5μg、女性2.5μg)
- 当院は消化器内科で精査済みの方の継続処方・生活指導に対応
下痢シリーズはVol.1(急性)/Vol.1へ、Vol.2 慢性下痢へでした。お腹のお悩み、ぜひお気軽にご相談ください。
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このお薬の相談は、オンライン診療で
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▼ シリーズの他の回(下痢の話・全3回)
- ▸ Vol.1 急性下痢
- ▸ Vol.2 慢性下痢の見極め
- Vol.3 過敗性腸症候群(IBS)(この記事)
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この記事の監修者

- 梅田北オンライン診療クリニック 院長
-
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)に在籍し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。
【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/
産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
詳しいプロフィールはこちら
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