下痢の話 Vol.2|4週間以上続く慢性下痢の見極めと「赤旗症状」

もう2か月くらい下痢が続いています。「ストレスかな」と思って我慢してたんですが…病院に行くべきでしょうか?何科に?

4週間以上続く下痢は「慢性下痢」と分類されます。多くは過敏性腸症候群(IBS)など機能的なものですが、大腸がん・炎症性腸疾患・甲状腺機能亢進症など、見落としてはいけない病気が隠れていることも。

今回Vol.2は、慢性下痢を引き起こす病気の見極めと、「受診したほうがいいサイン(赤旗症状)」を整理します。次回Vol.3でIBSの診断・治療を詳しく扱います。

慢性下痢の定義

区分期間次に考えること
急性14日以内感染性/食中毒(Vol.1参照)
持続性14〜28日寄生虫、長引く感染、薬剤、CD腸炎
慢性4週間以上本記事で扱う

慢性下痢の主な原因(全体像)

カテゴリ代表的な疾患・原因
機能性過敏性腸症候群(IBS-D・IBS-M)、機能性下痢
炎症性腸疾患(IBD)潰瘍性大腸炎、クローン病
悪性腫瘍大腸がん、神経内分泌腫瘍
感染症(慢性)ジアルジア、アメーバ、結核、HIV関連、CD腸炎
内分泌・代謝甲状腺機能亢進症、糖尿病性神経障害、副腎不全
食物不耐症・アレルギー乳糖不耐、グルテン不耐(セリアック・NCGS)、FODMAP不耐
薬剤性PPI長期、マグネシウム製剤、メトホルミン、コルヒチン、抗菌薬、SGLT2阻害薬、SSRI
胆汁酸性下痢胆嚢摘出後、回腸切除後、特発性
慢性膵炎・膵外分泌不全脂肪便、体重減少を伴う
顕微鏡的大腸炎高齢女性、PPI/NSAIDs関連が多い。内視鏡では正常、生検で診断
放射線性腸炎骨盤への放射線治療歴

一見「過敏性腸症候群」のような症状でも、大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)が初期症状として下痢で現れることが多いのが現実。

機能性の診断は「他の病気を否定してから」が原則です。

受診すべき「赤旗症状(Red Flags)」

赤旗症状疑う病態
血便・粘血便大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性大腸炎
意図しない体重減少(3か月で5%以上)がん、IBD、甲状腺機能亢進症、吸収不良
夜間の下痢・夜間の腹痛で目が覚める器質的疾患(IBDなど)を強く疑う
50歳以上の新規発症大腸がんスクリーニング対象
家族歴(大腸がん・IBD・セリアック)遺伝性疾患の検索
持続する発熱感染、IBD、悪性腫瘍
貧血・鉄欠乏慢性出血、吸収不良
関節痛・皮疹・口内炎IBDの腸管外症状
脂っぽい便(脂肪便)膵外分泌不全、セリアック

1つでも該当すれば、対面の消化器内科で大腸内視鏡を含む精査を強くお勧めします。

特に見落としやすい病気

① 大腸がん

  • 40歳以降から発症が増え、50歳以上で急増。日本人のがん死亡原因の上位
  • 初期は無症状。進行すると血便・便通異常・便が細い・体重減少・貧血
  • 右側結腸(盲腸・上行結腸)のがんは下痢で発症することがある
  • 便潜血検査(自治体検診)は40歳以上で年1回が推奨
  • 血便・40歳以上の新規便通異常では大腸内視鏡を

② 炎症性腸疾患(IBD)

疾患特徴
潰瘍性大腸炎(UC)直腸から連続性に大腸を侵す。粘血便・しぶり腹・頻回の下痢。20〜40代の発症が多い
クローン病口から肛門まで全消化管。腹痛・下痢・体重減少・痔瘻。10〜30代の発症が多い
腸管外症状関節痛、ブドウ膜炎、結節性紅斑、口内炎、強直性脊椎炎
診断大腸内視鏡+生検、血液検査(CRP、CA19-9、便中カルプロテクチン)
治療5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤(インフリキシマブ等)。専門医での継続管理が必要

③ 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

  • 動悸・体重減少・手の震え・暑がり・発汗過多・イライラ・眼球突出を伴う
  • 腸の動きが亢進して下痢・軟便が出る
  • 採血でTSH・FT3・FT4を測れば診断可能
  • 内分泌内科・甲状腺専門外来へ

④ 顕微鏡的大腸炎

  • 高齢女性に多い水様性下痢
  • 大腸内視鏡では見た目は正常。生検(病理)で診断
  • PPI・NSAIDs・SSRIなどの薬剤が原因のことが多い → 中止で改善
  • ブデソニドが治療薬として有効

⑤ 薬剤性下痢(見落としやすい)

よく原因になる薬メカニズム
マグネシウム製剤(マグミット等)浸透圧性下痢
PPI(タケキャブ・ネキシウム等)長期顕微鏡的大腸炎、CD腸炎リスク
メトホルミン服用開始時の下痢が多い
抗菌薬CD腸炎、腸内細菌叢の乱れ
SSRI/SNRIセロトニン作用で腸蠕動亢進
コルヒチン痛風予防の通常量でも下痢を起こす
SGLT2阻害薬
サプリ(マグネシウム、ビタミンC高用量)

原因薬の中止・変更で改善するケースが意外と多いので、薬剤師・主治医に相談を。ポリファーマシーの方はポリファーマシーの記事も参考に。

⑥ 食物不耐症・アレルギー

不耐症特徴対策
乳糖不耐症乳製品で下痢・腹部膨満・ガス。アジア人に多い乳糖分解酵素サプリ、乳製品制限、乳糖フリー牛乳
セリアック病グルテン(小麦・大麦・ライ麦)で重度の下痢・吸収不良グルテンフリー(生涯)
非セリアック性グルテン過敏症症状はセリアックに似るが抗体陰性グルテン量を減らす
FODMAP不耐発酵性糖類で下痢・腹部膨満(IBSと関連)低FODMAP食(Vol.3で詳述)

受診時に行う検査

検査目的
採血炎症(CRP)、貧血、甲状腺機能、肝・腎、電解質、栄養状態
便潜血検査大腸からの出血の有無
便中カルプロテクチンIBDの活動性スクリーニング
便培養・寄生虫検査感染性下痢
CD毒素検査抗菌薬関連の場合
大腸内視鏡+生検器質的疾患の確定診断(赤旗ありなら必須)
腹部エコー・CT膵疾患、腸管壁肥厚、リンパ節腫大

当院での慢性下痢への対応方針

  • 赤旗症状がなく、軽度〜中等度の症状で経過観察中の方のご相談、整腸剤や漢方の処方は可能
  • 赤旗症状(血便・体重減少・夜間症状・50歳以上の新規発症・家族歴・貧血など)がある方は対面の消化器内科で大腸内視鏡を含む精査を強くお勧めします
  • 採血・便潜血・大腸内視鏡は当院では行えません
  • すでにIBD・大腸がんで通院中の方の生活相談は可能ですが、専門治療薬の継続処方は主治医の方針に従ってください
  • 薬剤性下痢が疑われる場合(マグミット、PPI、メトホルミンなど)は薬の見直しのご相談に対応

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よくある質問

「IBSかな」と思っていますが、本当にそうですか?

IBSは「他の器質的疾患を除外した上での診断」が原則。

赤旗症状がなく、症状パターンがRome IV基準に合えばIBSの可能性が高い(Vol.3で詳述)。

逆に、50歳以上の新規発症、血便、体重減少、夜間症状があれば、IBSと自己判断せず精査を。

便潜血が陽性でしたが、自覚症状はありません

必ず大腸内視鏡で精査を受けてください。便潜血陽性のうち約3〜5%が大腸がん、約30〜50%にポリープが見つかります。

「痔のせい」と思い込まず、早めの内視鏡を。

海外旅行から帰国後3か月、下痢が続きます

ジアルジア・アメーバ・ストロンギロイデスなどの寄生虫感染が疑われます。

対面の感染症内科または消化器内科で便寄生虫検査を。一般のクリニックでは出ない検査もあるので、専門外来が確実です。

抗菌薬を飲んだ後から1か月以上下痢が続きます

CD腸炎(クロストリディオイデス・ディフィシル腸炎)の可能性が高い。

便のCD毒素検査で診断、メトロニダゾール・バンコマイシン経口で治療。重症化すると致死的なので早めに消化器内科へ。

「マグネシウム便秘薬」を飲んでいて軟便気味です

マグミット(酸化マグネシウム)は便を軟らかくする薬で、量が多いと水様便になることがあります。

腎機能が低下している方は高マグネシウム血症のリスクもあり、減量・中止を主治医と相談を。

糖尿病ですが下痢が続きます

糖尿病性自律神経障害(diabetic diarrhea)の可能性、またはメトホルミン・SGLT2阻害薬の副作用かもしれません。

主治医に相談を。薬の調整やビタミンB12欠乏の有無を確認する必要があります。

暴飲暴食後だけ下痢が続きます

胆汁酸性下痢や脂肪吸収不良の可能性。胆嚢摘出後の方にも多い。

症状が継続する場合は消化器内科で評価を。コレスチミドなど胆汁酸結合薬が有効なことがあります。

もう少し詳しく

「機能性」と「器質性」の違い

機能性疾患(IBSなど):内視鏡や画像で異常がなく、お腹の機能(動き・知覚)の問題

器質性疾患(IBD、がん、感染症など):内視鏡や画像で目に見える病変がある

機能性の診断は「器質性を除外してから」が原則。

便中カルプロテクチンとは

便中カルプロテクチンは腸の炎症マーカーで、IBDの活動性評価に用います。

IBS(機能性)では正常、IBD(器質性)では上昇するため、両者の鑑別補助に有用。

保険適用は限定的で、専門医療機関で行われることが多い検査です。

国の大腸がん検診の仕組み

日本では40歳以上で年1回の便潜血検査(2日法)が国の指針。市区町村の検診で安価に受けられます。

陽性なら大腸内視鏡での精査が推奨されます。

50歳以上は症状がなくても一度は内視鏡を受けると安心。

胆汁酸性下痢(Bile Acid Diarrhea)

胆汁酸は脂肪を分解する物質で、通常は回腸末端で再吸収されます。

胆嚢摘出後、回腸切除後、特発性などで再吸収が損なわれると、胆汁酸が大腸に流入して下痢を起こします。

治療は胆汁酸結合薬(コレスチミド、コレスチラミン)。意外と頻度の高い見落とされやすい原因。

参考文献・情報源

  • 日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020」
  • 日本消化器病学会「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020」
  • American Gastroenterological Association. Chronic diarrhea guidelines. Gastroenterology 2019.
  • 厚生労働省「大腸がん検診指針」

まとめ

  • 4週間以上続く下痢は「慢性下痢」として精査の対象
  • 赤旗症状(血便・体重減少・夜間症状・50歳以上の新規発症など)があれば消化器内科へ
  • 大腸がん、IBD、甲状腺機能亢進症、薬剤性、顕微鏡的大腸炎などを見落とさない
  • 薬剤性とポリファーマシーの関与も多い(ポリファーマシー記事参照)
  • 当院は赤旗症状なしの軽症の相談・整腸剤処方・薬剤性下痢の見直しに対応
  • Vol.3 過敏性腸症候群(IBS)で診断と治療を詳しく解説しています

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▼ シリーズの他の回(下痢の話・全3回)

この記事の監修者

原 達彦
原 達彦梅田北オンライン診療クリニック 院長
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)に在籍し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/
産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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