下痢の話 Vol.1|急性下痢(胃腸炎・食中毒)の見分け方と対処・受診タイミング

昨日の夜から急にひどい下痢で、もう10回くらいトイレに行っています。吐き気もあって、これって食中毒ですか?薬は何を飲めばいいですか?

急に始まった激しい下痢の多くは、ウイルス性胃腸炎(風邪のお腹バージョン)か食中毒です。

大切なのは「薬で止める」ではなく「脱水を防ぐ」こと。多くは自然に治りますが、見逃せないサイン(血便・高熱・激痛・脱水)もあります。

今回(Vol.1)は急性下痢のセルフケアと受診タイミングを整理します。慢性の下痢はVol.2、過敏性腸症候群(IBS)はVol.3で扱います。

「急性」と「慢性」の境目

区分期間主な原因
急性下痢14日以内ウイルス・細菌感染、食中毒、薬剤、食事
持続性下痢14〜28日寄生虫、長引く感染、薬剤
慢性下痢4週間以上IBS、炎症性腸疾患、内分泌、食物不耐症(Vol.2/3で詳述)

急性下痢のよくある原因(表)

原因典型像潜伏期
ウイルス性胃腸炎(ノロ・ロタ・アデノ)吐き気→嘔吐→水様下痢、軽い発熱、24〜72時間で軽快12〜48時間
カンピロバクター鶏肉・生レバー後の激しい腹痛+血便+発熱2〜5日
サルモネラ卵・鶏肉後の発熱+下痢+腹痛12時間〜3日
腸管出血性大腸菌(O-157など)血便+激痛HUS(溶血性尿毒症症候群)のリスクあり3〜8日
黄色ブドウ球菌(毒素型)おにぎり・サンドイッチ後、食後数時間で嘔吐、下痢は軽め1〜6時間
ビブリオ(夏の魚介)激しい下痢、ときに血便8〜24時間
ウエルシュ菌カレー・煮込み料理を翌日食べた後の下痢6〜18時間
薬剤性抗菌薬・マグネシウム製剤・PPI開始後など服用後

ウイルス性と細菌性の見分け(あくまで目安)

特徴ウイルス性細菌性
発症急に嘔吐から始まることが多い腹痛・下痢から始まることが多い
発熱軽度〜中等度高熱が出ることがある
血便原則なしカンピロバクター・O-157などで出る
経過1〜3日で軽快3〜7日続くことが多い
流行冬に多い(ノロ)夏に多い
抗菌薬効かない(不要)重症や特定菌種で使うことがある

見た目だけで完全に区別はできません。血便・高熱・激痛があるときは細菌性を疑って早めの受診を。

対応の優先順位は「水分・電解質」

下痢の本当の怖さは下痢そのものではなく脱水と電解質バランスの乱れです。

経口補水液(ORS)の使い方

項目内容
市販のORSOS-1、アクアサポート、アクアソリタなど。薬局やコンビニで購入可
目安量1日1〜2Lを少しずつ。一気飲みは吐き気を誘発
飲み方5〜10mLを5〜10分おきに。コップで一気に飲まない
水とお茶だけで足りる?軽症は水とお茶+少量の塩でOK。下痢・嘔吐が多いときはORSが圧倒的に効率的
スポーツドリンク糖分が多くナトリウムが少ないため、下痢時のORS代わりとしてはやや非効率
自家製ORS(緊急時)水500mL+砂糖大さじ2+塩ひとつまみ(小さじ1/4)+お好みでレモン少々

脱水のサイン(重症のチェック)

  • 口の中・舌が乾いている
  • 尿の色が濃い/回数が減る
  • 立ち上がるとふらつく(起立性低血圧)
  • 皮膚をつまむと戻りが遅い
  • 泣いても涙が出ない(小児で重要)
  • 意識がもうろう・ぐったり

食事のコツ(下痢の日のメニュー)

食べていいもの避けたほうがいいもの
白がゆ、おかゆ、うどん(汁少なめ)、雑炊脂っこい料理、揚げ物
バナナ、すりおろしりんご(BRAT食)生もの、香辛料、激辛
豆腐、白身魚、よく加熱した卵カフェイン(コーヒー、紅茶、エナドリ)
具なし味噌汁、塩昆布アルコール(腸を刺激)
経口補水液炭酸飲料、ジュース、牛乳(一時的に乳糖不耐に)

BRAT食」=Banana(バナナ)/Rice(白米)/Apple sauce(すりおろしりんご)/Toast(食パン)。胃腸に優しい組み合わせとして知られています。

薬の使い分け

カテゴリ使いどころ注意
整腸剤ビオフェルミン、ミヤBM、ラックビーなど腸内環境を整える。基本的にどの下痢にも安全
止痢薬(ロペラミド)ロペミン、ストッパなど急なお腹で外出時、長距離移動など血便・高熱があるときは原則使わない(毒素を体内に閉じ込めるリスク)
収斂薬タンナルビン下痢を「乾かす」イメージ。穏やか
抗菌薬原則不要。重症や特定菌のみ医師判断で安易に「とりあえずクラビット」は耐性菌の温床
制吐剤ナウゼリン、プリンペラン嘔吐が強くて水分が入らないとき
漢方五苓散、桂枝加芍薬湯、半夏瀉心湯水様便、お腹の張り、心因性に応じて

下痢止めは「症状を抑える」だけで原因の毒素や菌を体外に出すのを妨げることがあります。

感染性下痢ではむしろ「出し切る」ことが治癒への近道。安易な止痢薬使用は控えましょう。

受診を急ぐサイン

  • 血便、黒色便
  • 高熱(38.5℃以上)が続く
  • 強い腹痛・腹部膨満
  • 意識がもうろう・ぐったり
  • 尿が半日以上出ていない(重度脱水)
  • 嘔吐で水分が全く取れない
  • 3日以上下痢が続いている
  • 体重5%以上減少
  • 海外渡航後(赤痢、コレラなどの可能性)
  • 抗菌薬服用中・直後(CD腸炎の可能性)
  • 高齢者・乳幼児・妊婦・基礎疾患のある方はより早めに

当院での急性下痢への対応

  • 軽症〜中等症の急性下痢のご相談はオンライン診療で対応可能(整腸剤、制吐剤、漢方、ORS指導など)
  • 採血や便培養、点滴は当院では行えません。重症が疑われる場合は対面受診をご案内します
  • 「とりあえず抗菌薬(クラビット等)」処方は行いません耐性菌・CD腸炎リスクのため)
  • 受診を急ぐサインがあれば、内科・救急外来へ直接ご相談ください

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よくある質問

家族にうつしたくない。どうすれば?

ノロウイルスなどは嘔吐物・便から空気感染(飛沫)するレベルで感染力が強い

対策:手洗いは石けん+流水で30秒以上(アルコール消毒だけではノロに無効)/嘔吐物の処理は使い捨て手袋+マスク+次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)/タオル・食器を分ける/調理は症状改善+48時間以降に

「アルコール消毒があるから大丈夫」じゃないんですか?

ノロウイルスにはアルコールの殺菌効果が弱いです。

次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤を希釈)が有効。トイレ・ドアノブ・床の消毒に使ってください。

キッチンハイター原液:水=1:50(0.1%)が嘔吐物・便用、1:250(0.02%)が日用消毒の目安。

保育園・職場にはいつ行ってOK?

下痢・嘔吐が止まってから24〜48時間が一般的な目安。

食品関連の仕事は便培養が陰性になるまで休む必要がある場合も。職場ルールを確認してください。

保育園は園の規定に従い、登園許可証が必要なことがあります。

整腸剤と止痢薬、どっちが先?

まず整腸剤+ORS+食事の工夫。止痢薬は外出など「どうしても止めたい場面」に限定。

感染性が疑われる場合(血便・高熱)は止痢薬は使わないでください

「抗生剤を飲むと早く治る」と聞きました

急性下痢の多くはウイルス性で、抗生剤は効きません

細菌性でも軽症なら抗生剤なしで治ります。安易な抗菌薬はむしろ腸内環境を壊し、回復を遅らせる/CD腸炎を誘発することがあります。

詳しくは抗生剤と耐性菌の話を。

海外旅行から帰ってきて下痢が続きます

旅行者下痢症と言って、東南アジア・南アジア・中南米・アフリカで多い。

原因菌は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、サルモネラ、カンピロバクター、寄生虫など。

血便・高熱・激しい腹痛・3日以上続く場合は対面受診を。便培養・寄生虫検査の対象になります。

抗菌薬を飲んだ後の下痢が止まりません

クロストリディオイデス・ディフィシル腸炎(CD腸炎)の可能性があります。

抗菌薬で正常な腸内細菌が一掃され、CDが増殖して激しい下痢を引き起こす状態。重症化すると致死的。

抗菌薬使用中・終了後数週間で水様下痢が続く場合は対面受診を。便検査で診断できます。

もう少し詳しく

「赤旗症状(Red Flags)」のまとめ

次のサインがある場合は単なる胃腸炎で済まない可能性があり、早期の対面受診が必要:

血便・黒色便

持続する高熱(38.5℃以上)

強い腹痛・腹部膨満

体重減少(短期で5%以上)

夜間の症状で目が覚める

嘔吐で水分が入らない

意識障害・尿が出ない

抗菌薬使用後の下痢

海外渡航歴

食中毒の潜伏期から原因を逆算する

1〜6時間:黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型)

6〜18時間:ウエルシュ菌、セレウス菌(下痢型)

12〜48時間:ノロウイルス、サルモネラ、ビブリオ

2〜5日:カンピロバクター

3〜8日:腸管出血性大腸菌(O-157)

1〜数週間:寄生虫、A型肝炎

何を/いつ食べたか」が診断のヒントになります。

小児・高齢者の脱水サインの違い

小児泣いても涙が出ない、おしっこの回数が半日以上ない、唇が乾いている、ぐったりして動かない、大泉門が陥没(乳児)

高齢者:のどの渇きを感じにくいため自覚なく脱水になる。皮膚のハリ低下、舌の乾燥、見当識障害、立ちくらみ、尿量減少

小児・高齢者は早めに対面受診+点滴対応を検討してください。

参考文献・情報源

  • 日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020」
  • 日本感染症学会・日本化学療法学会「JAID/JSC感染症治療ガイド2023」
  • 厚生労働省「食中毒統計」
  • CDC. Foodborne Illness, Foodborne Disease Outbreak Surveillance.
  • World Gastroenterology Organisation Global Guidelines: Acute diarrhea in adults and children 2012.

まとめ

  • 急性下痢の多くはウイルス性胃腸炎か食中毒
  • 最優先は「脱水を防ぐ」。ORSを少量ずつ
  • BRAT食(バナナ・米・りんご・トースト)が胃腸に優しい
  • 止痢薬は「血便・高熱」のときは使わない
  • 抗菌薬は原則不要。安易な処方は耐性菌・CD腸炎リスク
  • 受診を急ぐサイン:血便/高熱/激痛/脱水/3日以上の持続
  • 次回:Vol.2 慢性下痢の見極め方Vol.3 過敏性腸症候群(IBS)

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▼ シリーズの他の回(下痢の話・全3回)

この記事の監修者

原 達彦
原 達彦梅田北オンライン診療クリニック 院長
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)に在籍し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/
産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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