ポリファーマシー(多剤併用)の危険|薬が増えるほど起こること・減らし方を医師が解説

母(78歳)が病院を3つかかっていて、薬が朝・昼・夕・寝る前で全部で13種類あります。最近ふらつきや物忘れも増えて、薬のせいじゃないかと心配です。

ご心配の通り、多剤併用(ポリファーマシー)が原因の可能性が十分にあります。
日本の研究では、薬が6剤を超えたあたりから薬物有害事象が急増し、5剤以上で転倒リスクが約1.4倍になることが示されています。
この記事では、ポリファーマシーが何を引き起こすのか、避けるべき薬の代表例、そして「無理なく減らすコツ(Deprescribing)」までを整理します。
目次
ポリファーマシーとは
| 観点 | 定義 |
|---|---|
| 狭い定義 | 一般的に5剤以上、または6剤以上の併用 |
| 本質的な定義 | 「必要以上に多くの薬を使っている状態」。数だけでなく適切性が問題 |
| 適切な多剤併用 | 心不全+糖尿病+高血圧などで医学的に必要な10剤も存在しうる(ポリファーマシーではない) |
| 不適切な多剤併用 | 「効果のない薬」「不要な予防薬」「副作用を打ち消すだけの薬」「過去の処方が残ったまま」 |
単に「薬が多い」のではなく、「不必要な薬が混ざっている状態」がポリファーマシーの本質です。
日本の高齢者の処方の実態
- 75歳以上の40〜50%が5剤以上を処方されている(厚労省調査)
- 外来高齢者の約25%が7剤以上
- 入院高齢者では平均6.5剤
- 年間の残薬は数百億円〜数千億円規模との試算(医療費の無駄)
ポリファーマシーが引き起こす4つのリスク
| リスク | 内容 |
|---|---|
| ① 薬物有害事象(ADE) | 薬剤数が増えるほど有害事象が指数関数的に増加。6剤以上で急増、5剤以上で転倒リスク1.4倍、骨折・入院に直結 |
| ② 薬物相互作用(DDI) | CYP代謝酵素を介した相互作用、QT延長の重複、抗コリン作用の重複、出血リスクの上乗せなど |
| ③ アドヒアランス低下 | 飲み忘れ、飲み間違い、自己中断。残薬の山。「飲んでいるつもり」が実は飲めていない |
| ④ 処方カスケード | 副作用→「新しい症状」と誤認→新たな薬を追加→さらに副作用…の悪循環 |
処方カスケード(よくある例)
| きっかけ薬 | 起こる副作用 | 追加されがちな薬 |
|---|---|---|
| カルシウム拮抗薬(アムロジピン等) | 足のむくみ | 利尿薬 → 低カリウム血症 → カリウム製剤 |
| NSAIDs(ロキソニン等の長期) | 胃痛・潰瘍 | PPI(タケキャブ・パリエット)長期 → 骨折・肺炎・CDI リスク上昇 |
| 抗精神病薬 | 錐体外路症状(震え) | 抗パーキンソン薬 → 抗コリン作用でせん妄・便秘 |
| ステロイド長期 | 骨粗鬆症・胃症状 | ビスホスホネート、PPI → 食道炎、骨折、CDI |
| 抗コリン薬(過活動膀胱・抗ヒスタミン) | 便秘・口渇 | 下剤、人工唾液、点眼薬 |
| SU薬(オイグルコン、グリミクロン等) | 低血糖→転倒 | 頭部CT、骨折治療… |

カスケードの怖さは「気づきにくい」こと。
本人も家族も医師も、「むくみは年だから」「胃痛は別の問題」と片付けて、根本の薬を見直さないことが多いです。
「最近始まった症状」と「最近始まった薬」のタイムラインを並べてみることが第一歩です。
高齢者で特に注意したい薬(STOPP-J / Beers基準)
| 薬の種類 | 代表例 | 起こりやすい問題 |
|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系・非Bz系睡眠薬 | デパス、ハルシオン、マイスリー、ルネスタ | 転倒・骨折、認知機能低下、依存。当院では原則処方しません |
| 抗コリン作用のある薬 | 三環系抗うつ薬、過活動膀胱薬、第1世代抗ヒスタミン薬 | せん妄・認知機能低下、便秘、口渇、尿閉 |
| 第1世代抗ヒスタミン薬 | ポララミン、レスタミン、PL顆粒の成分 | 眠気、転倒、せん妄 |
| SU薬(スルホニル尿素) | オイグルコン、グリミクロン、グリクロピリミジン | 重症低血糖、転倒、認知機能悪化 |
| NSAIDs長期使用 | ロキソプロフェン、ジクロフェナク | 腎機能低下、消化管出血、高血圧悪化 |
| ジゴキシン高用量 | ジゴシン | 中毒域が狭い、不整脈 |
| α遮断薬 | カルデナリン、ハイトラシン | 起立性低血圧、転倒 |
| PPI(プロトンポンプ阻害薬)長期 | タケキャブ、ネキシウム、パリエット | 骨折、肺炎、CDI、ビタミンB12欠乏 |
| 抗精神病薬 | リスパダール、セロクエル等 | 認知症行動症状で使うが死亡率上昇のリスク |
| アスピリン長期 | — | 出血リスク。一次予防は推奨されない方向に |
参考:日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」/米国のBeers基準/欧州のSTOPP/START基準
減薬(Deprescribing)の進め方
- ① お薬手帳をすべて1冊にまとめる(複数の病院・薬局を1冊に)
- ② 「効果不明」「症状なし」「重複」「予防のための予防薬」を洗い出す
- ③ 主治医・かかりつけ薬剤師と相談。優先順位の高い薬から残す
- ④ 1〜2剤ずつ・数週間〜数か月かけて減らす(一気に複数を減らさない)
- ⑤ 中止後の症状変化を観察。記録を取って再評価
- ⑥ 必要なら戻す勇気も持つ。減薬は「やめる」ではなく「最適化」

減薬は「ひき算の医療」とも言われ、最も難しいけれど価値のある介入の一つです。
「薬を出す」より「薬を減らす」ほうが時間も説明も労力もかかるため、外来の現場では後回しになりがち。それでも、一度棚卸しをすると劇的に体調が良くなる方がいらっしゃいます。
「お薬手帳」と「かかりつけ薬剤師」の活用
| 仕組み | 効果 |
|---|---|
| お薬手帳を1冊に統一 | 複数の病院・薬局の処方を一覧化。重複や相互作用が見つかる |
| 市販薬・サプリ・漢方も記載 | 処方薬だけでなく全てを把握 |
| かかりつけ薬剤師制度 | 専属の薬剤師が処方を把握し、医師とも連携。重複の指摘や生活相談ができる |
| 残薬調整 | 薬局で残っている薬を見せると、次回の処方量を調整してもらえる |
| 一包化 | 朝・昼・夕の薬をパッケージ化。飲み忘れ対策 |
当院でのポリファーマシー対応方針
- ご相談いただければ、お薬手帳を見ながら全体の処方を一緒に整理することは可能です(オンラインで実施)
- 当院での減薬の判断は、内科主治医・精神科主治医がいる方は主治医を尊重します。最終判断は主治医と。
- 定期採血(電解質・腎機能・肝機能・血糖など)でのフォローは当院では行えません。減薬経過の追跡はかかりつけ医での採血を継続してください。
- ベンゾジアゼピン系・非Bz系睡眠薬、SU薬、強い抗コリン薬は当院から新規処方しません。減量・中止のサポートはご相談ください。
- NSAIDsよりアセトアミノフェンを基本に。腎機能低下の方の薬の選び方は腎機能障害時の内服注意点へ
- 生活習慣病の見直しで薬を減らせる可能性については生活習慣病シリーズもご参照ください
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よくある質問
-
自己判断で薬をやめてもいいですか?
-
原則NGです。急に止めると反跳現象が起こる薬があります。
例:β遮断薬(突然中止で頻脈・狭心症発作)/ステロイド長期使用(副腎不全)/SSRI・SNRI(中断症候群)/クロニジン(リバウンド高血圧)/ベンゾジアゼピン(離脱症状・けいれん)
必ず主治医・薬剤師と相談しながら段階的に減らしてください。
-
病院を3つかかっていて、それぞれで処方されています
-
これがポリファーマシーの典型パターンです。① お薬手帳を1冊に統一して全病院に提示、② かかりつけ薬剤師を1人決めて全処方を把握してもらう、③ 主治医となる総合医(家庭医・かかりつけ内科)を決めて整理するのが王道です。
当院オンライン診療でも、お薬手帳の写真をご提示いただければ全体の整理にお手伝いします。
-
「年だから飲み忘れは仕方ない」と諦めています
-
飲み忘れが多い時こそ、処方そのものを見直すサインです。
① 1日1回の長時間作用型に切り替える、② 一包化、③ ピルケース、④ お薬カレンダー、⑤ 服薬時間アプリなどツールも豊富。
まず「本当に必要な薬は何か」を整理してから対策を立てると効果的です。
-
サプリや市販薬も問題になりますか?
-
はい、大いになります。
例:セントジョーンズワート(多くの薬の効果を下げる)/グレープフルーツジュース(カルシウム拮抗薬等の血中濃度上昇)/納豆・クロレラ(ワーファリンの効果を下げる)/高用量ビタミンK/カリウム含有食品(ARB・スピロノラクトン併用で高K血症)
サプリも市販薬もすべてお薬手帳に書いてください。
-
薬を減らしたら症状が悪くなりませんか?
-
減薬は「すべての薬をやめる」ではなく「必要なものを残して整理する」こと。
段階的に減らせば多くの場合、体調はむしろ改善します。ふらつき・物忘れ・便秘・倦怠感・食欲不振などが薬の副作用だった、というケースは少なくありません。
減薬経過は必ず記録して、悪化したら戻すか別の対応を医師と相談しましょう。
-
血圧の薬は一生飲み続けるって本当ですか?
-
必ずしもそうではありません。減量・食事改善・運動・節酒・禁煙で血圧が大きく下がれば、減薬・中止できるケースもあります。
詳しくは高血圧の生活対策もご参照ください。
自己判断は危険なので必ず主治医と一緒に計画を。
-
認知症の薬は減らせますか?
-
これは慎重に判断が必要な領域で、当院では認知症の薬の継続処方・調整は行いません。
主治医のもの忘れ外来・神経内科・精神科で減薬の相談を。
一方で、BPSDのために追加された抗精神病薬・睡眠薬などは見直し可能なことが多いので、専門医と相談を。
もう少し詳しく
STOPP-J(日本版STOPP)と「特に慎重を要する薬物リスト」
日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、「特に慎重な投与を要する薬物」のリストを公表しています。
主な対象:抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系・非Bz系睡眠薬、三環系抗うつ薬、抗コリン作用のある薬、NSAIDs長期、SU薬、ジゴキシン高用量、α遮断薬、抗ヒスタミン薬(第1世代)
これらは「絶対ダメ」ではなく「定期的に必要性を見直す」べき薬として位置づけられています。
「予防の予防」を見直す視点
高齢者では、「症状はないが将来のために」処方されてきた予防薬が積み重なりがち。
・スタチン(心血管予防、85歳以上では効果が見えにくくなる)
・ビスホスホネート(骨折予防、5年以上で休薬検討)
・アスピリン(一次予防は近年推奨度低下)
・PPI(消化管出血予防、必要性の再確認)
残りの予後・生活の質(QOL)を考慮して、「10年後の予防」のために今の副作用を引き受けるかを再評価することが大切です。
「重複処方」のよくあるパターン
・NSAIDs + COX-2選択的阻害薬(セレコックス):効果は重複、副作用は加算
・SU薬 + 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド):同系統で重複
・カルシウム拮抗薬 2種類
・ベンゾ系の重複(不安薬+睡眠薬で複数のベンゾ)
・胃薬の重複(PPI+H2ブロッカー+胃粘膜保護薬)
・下剤の重複(マグネシウム製剤+センノシド+酸化マグネシウム)
これらは病院・診療科ごとに処方されると気づかれないまま蓄積します。
薬剤性パーキンソニズム・薬剤性認知症
薬剤性パーキンソニズム:抗精神病薬、制吐薬(メトクロプラミド=プリンペラン)、Ca拮抗薬の一部などで震え・歩行障害が出る。原因薬の中止で改善することが多い
薬剤性認知症:抗コリン薬、ベンゾ系、PPI、ステロイド、オピオイドなどで認知機能低下。中止すると改善する場合あり
「パーキンソン病」「認知症」と診断される前に、薬剤性の可能性を必ずチェックすることが推奨されています。
参考文献・情報源
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)2018/各論編 2019」
- STOPP/START criteria for potentially inappropriate prescribing in older people: version 3. Eur Geriatr Med. 2023.
- American Geriatrics Society 2023 Beers Criteria. J Am Geriatr Soc. 2023.
- Onder G, et al. Polypharmacy in nursing home residents. Drugs Aging. 2014.
- Scott IA, et al. Reducing inappropriate polypharmacy: the process of deprescribing. JAMA Intern Med. 2015;175:827-834.
まとめ
- ポリファーマシーは「数」より「不必要な薬の蓄積」が問題
- 5〜6剤を超えると有害事象・転倒・入院リスクが急増
- 処方カスケードに気づくのが大切(「最近の症状」と「最近の薬」を並べて確認)
- 減薬は1〜2剤ずつ、段階的に、必ず主治医と
- お薬手帳を1冊に統一し、かかりつけ薬剤師を持つ
- 当院は処方の整理相談に対応可能(最終判断は主治医と。採血フォローは対面で)
- ベンゾ系・非Bz系睡眠薬・SU薬・強い抗コリン薬は当院から新規処方しません
「親の薬が多すぎて心配」「自分の処方の重複が気になる」とお感じの方は、お薬手帳を準備のうえ、お気軽にオンライン診療でご相談ください。
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この記事の監修者

- 梅田北オンライン診療クリニック 院長
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【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)に在籍し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。
【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/
産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
詳しいプロフィールはこちら
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