認知症のサインと受診タイミング Vol.1|もの忘れとの違い・タイプ別の特徴(家族向け)

最近、両親(70代)の物忘れが気になります。同じ話を何度もしたり、約束を忘れたり。これは「歳のせい」なのか「認知症の始まり」なのか…どう見分ければいいですか?

ご家族の気づきは、認知症の早期発見でいちばん大切なきっかけです。「歳のせい」と「認知症」は、似ているようで記憶の忘れ方の質が違います。

今回は家族が気づくべきサインと、受診のタイミング・受診先について整理します。

当院では認知症の薬(ドネペジル・メマンチン等)の処方は新規・継続ともに行いません。診断と治療は対面の「もの忘れ外来」「神経内科」「精神科」での対応が必須です。一方で認知症の予防(生活習慣病管理、過剰飲酒対策)は当院の得意分野なので、後半とVol.2でしっかりお伝えします。

「もの忘れ」と「認知症」の違い

観点加齢によるもの忘れ認知症
忘れ方体験の一部を忘れる(「昼に何を食べたか」を思い出せない)体験そのものを忘れる(「昼食を食べたこと自体」を覚えていない)
ヒントヒントで思い出せるヒントでも思い出せない
自覚忘れたことを自覚している忘れたことに気づかない/取り繕う
日常生活支障なし料理・買い物・服薬・お金管理に支障
進行長期間でゆっくり数か月〜数年で明らかに進行
判断力・性格保たれている判断力低下・性格変化・易怒性

いちばん分かりやすい違いは「体験の一部を忘れるか、体験ごと忘れるか」。

「ご飯のメニューを忘れた」は加齢、「ご飯を食べたこと自体を覚えていない」は受診検討のサインです。

認知症の主なタイプ

タイプ割合特徴
アルツハイマー型(AD)約60〜70%記憶障害(特に新しい記憶)から始まる。海馬の萎縮。徐々に進行
レビー小体型(DLB)約4〜20%幻視・パーキンソン症状・調子の波・REM睡眠行動異常
血管性(VaD)約20%脳梗塞・脳出血の後遺症。階段状に悪化。高血圧・糖尿病が背景
前頭側頭型(FTD)約1〜5%性格変化・脱抑制・言葉が出にくい。記憶は比較的保たれる
アルコール関連認知症数%〜(過小評価)長年の大量飲酒。前頭葉萎縮、Wernicke-Korsakoff症候群。Vol.2で詳述
正常圧水頭症(iNPH)歩行障害+認知症状+尿失禁の三徴。シャント手術で改善することがある
その他甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、神経梅毒、慢性硬膜下血腫など治療可能な「治る認知症」もある

タイプによって進行や対応が全く違うため、「単一の病気」ではなく「症候群」と捉える視点が重要です。

家族が気づきやすい10のサイン

  • 同じ話・同じ質問を繰り返す
  • 約束や予定を忘れる
  • 料理の手順が崩れる、味付けが変わる
  • 財布・鍵などをよく失くす/盗まれたと言う
  • 季節に合わない服装をする
  • 趣味・テレビ番組への興味が薄れる
  • 性格が変わった(怒りっぽい・無気力・身だしなみが崩れる)
  • 道に迷う、運転でヒヤリが増える
  • お金の計算が苦手になる、同じものを何度も買う
  • 幻視(小さい子どもや虫が見える)/夜間の異常行動

受診を急いだほうがいいサイン

  • 急に進行した(数週間〜数か月で明らかに悪化)→ 慢性硬膜下血腫、せん妄、正常圧水頭症、内科疾患を疑う
  • 幻視・幻覚が頻繁 → レビー小体型を疑う
  • 歩行障害・転倒・尿失禁を伴う → 正常圧水頭症など
  • 火の不始末、車の事故、徘徊などの安全リスク
  • 性格が急変した、暴言・暴力が出てきた
  • 本人がうつ症状を訴える(仮性認知症の可能性。治療可能)

どこを受診すればいい?

受診先向く方
もの忘れ外来認知症専門。HDS-R/MMSE、MRI、SPECTで総合的に評価できる
神経内科歩行障害・パーキンソン症状・運動症状を伴うとき
精神科幻覚・妄想・不眠・うつ・暴力的行動を伴うとき
かかりつけ内科まず相談先として。専門外来へ紹介可
地域包括支援センター介護保険・福祉サービスの窓口(市区町村に必ずある)
認知症初期集中支援チーム市区町村に設置。受診拒否や独居など困難ケースに対応

大阪府内では、もの忘れ外来を持つ病院が複数あります(大阪大学医学部附属病院、大阪市立総合医療センター、関西医科大学附属病院、堺市立総合医療センター ほか)。地域包括支援センターから紹介を受けると初期対応がスムーズです。

受診時に持っていくと役立つもの

  • 家族が気づいた変化のメモ(いつから、どんな様子か。具体例があるほど良い)
  • お薬手帳(薬剤性のもの忘れを除外するため)
  • 健康診断・過去の採血結果
  • 同居・付き添いの家族(本人だけだと正確な情報が取れない)
  • 運転免許証の状況(免許更新・自主返納の話題が出る)

診察で受ける主な検査

検査内容
問診(家族同席)症状の経過、生活状況、性格変化を聴取
HDS-R(長谷川式)30点満点の簡易テスト。20点以下で認知症の疑い
MMSE30点満点の国際標準テスト。23点以下で疑い
頭部MRI/CT海馬萎縮、脳血管病変、慢性硬膜下血腫、水頭症などを評価
脳血流SPECT早期AD・DLBの鑑別に有用
採血(甲状腺、ビタミンB1/B12、肝・腎、梅毒)治療可能な原因を除外

当院での対応方針(重要)

  • 認知症の薬(ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミン・メマンチン)は、新規導入も継続処方も当院では行いません。診断と治療は対面のもの忘れ外来・神経内科・精神科で継続してください。
  • レカネマブ・ドナネマブ(抗アミロイドβ抗体)は専門医療機関でのアミロイドPETと点滴投与が必要で、当院ではご案内のみ。
  • 一方、認知症リスクとなる生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症・脂肪肝)の継続処方は対応可能(内科主治医あり前提)。
  • 過剰飲酒のサポート(セリンクロ自費)禁煙外来(チャンピックス自費)も対応可。
  • Vol.2で予防の生活対策を詳しくお伝えします。

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よくある質問

本人が病院に行きたがりません

健康診断のついで」「運転のため」など、認知症ではない名目で誘うのが現実的なコツです。

どうしても無理な場合は、地域包括支援センター認知症初期集中支援チームに相談してください。家庭訪問で対応してくれる仕組みがあります。

もの忘れ外来の予約が3〜6か月待ちです

専門外来は混雑しています。まずかかりつけ内科で診てもらい、紹介状を出してもらうと優先される場合があります。

緊急性が高いとき(急進行、暴力、徘徊、自殺念慮)は精神科救急やかかりつけ医に直接相談を。

検査は怖がりますか?

HDS-R・MMSEは会話形式の質問で、痛みも針もありません。MRIは20〜30分の検査で大きな音がしますが安全です。

本人が不安にならないよう「頭の元気度をチェックする」程度の説明で連れて行く方が多いです。

「治る認知症」って本当にあるの?

はい。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、神経梅毒、薬剤性、うつ病による仮性認知症などは適切な治療で大きく改善することがあります。

だからこそ「もの忘れ=アルツハイマー」と決めつけず、一度は専門医で精査を受けることが大切です。

遺伝しますか?

家族性アルツハイマー病(若年発症)は遺伝性ですが、全体の1%以下と非常に稀。

一般のアルツハイマー型は遺伝の影響は限定的で、生活習慣の影響のほうが大きいとされています(Lancet 2024で14因子が予防可能と報告)。

Vol.2でその予防策を詳しくお話しします。

運転免許はどうすればいい?

認知症と診断されると道路交通法上、運転免許は取消・停止になります(医師の届け出義務)。

本人や家族と相談しながら自主返納を検討するのが安全。各都道府県で運転免許経歴証明書を取得すると身分証明書として使えます。

もう少し詳しく

MCI(軽度認知障害)について

MCI(Mild Cognitive Impairment)は、加齢の物忘れより明らかに低下しているが認知症の基準は満たさない中間段階。

年率10〜15%が認知症に進行、一方で5〜30%は正常に戻るとされ、まさに介入のチャンスの時期。

この段階で生活習慣改善(運動・食事・社会参加・難聴対策)を始めると、認知症発症を遅らせたり防いだりできる可能性があります。

せん妄と認知症の見分け方

せん妄は急性の意識障害で、数日〜数週間で発症。注意力の変動、幻覚、興奮を伴うことが多い。

原因:感染症、脱水、薬剤、術後、入院、便秘、痛みなど。原因を除けば改善することが多い。

高齢者で「急に様子がおかしい」場合は、認知症ではなくせん妄の可能性が高く、内科救急の対応が必要です。

認知症の進行と平均余命

個人差が大きいですが、アルツハイマー型は診断後平均7〜10年

レビー小体型は転倒・誤嚥のリスクで進行が早めの傾向。

血管性は脳卒中の再発が予後を左右。

進行を遅らせる最も確実な方法は、合併症(誤嚥性肺炎・骨折・感染)の予防生活習慣病の管理です。

参考文献・情報源

  • 「認知症疾患診療ガイドライン2017」(日本神経学会)
  • Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.
  • 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(最新版)
  • 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
  • World Alzheimer Report 2023(Alzheimer's Disease International)

まとめ

  • もの忘れと認知症の違いは「体験ごと忘れるか
  • 主なタイプはAD/DLB/VaD/FTD+アルコール関連認知症
  • 治る認知症」も存在するので一度は専門医で精査を
  • 受診先はもの忘れ外来・神経内科・精神科・地域包括支援センター
  • 当院では認知症の薬は処方しません(予防の生活対策と過剰飲酒・生活習慣病の継続処方は対応可)
  • 次のVol.2「お酒と前頭葉・生活習慣病との関係(Lancet 2024)」で予防策を詳しく解説しています

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▼ シリーズの他の回(認知症のサインと予防・全2回)

この記事の監修者

原 達彦
原 達彦梅田北オンライン診療クリニック 院長
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)に在籍し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/
産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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