お酒は「適量ならOK」は本当か?最新のWHO・厚労省ガイドラインと飲酒量低減薬セリンクロ

「お酒は適量なら体にいい」って昔から言いますよね。毎日ビール1〜2本くらいなら大丈夫ですよね?

実はその「適量なら健康に良い」という説は、2022〜2024年の最新研究で大きく覆されています

WHOは2023年に「健康にとって安全な飲酒量は存在しない」と公式に発表しました。日本でも2024年2月に厚生労働省が初めて「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しています。

この記事では最新の知見をまとめ、「お酒を減らしたいけど減らせない」と感じている方に向けて、飲酒量低減のための薬セリンクロ(ナルメフェン)もご紹介します。

WHO 2023年声明:「安全な飲酒量は存在しない」

2023年1月、WHO(世界保健機関)はThe Lancet Public Healthで「健康への影響を考えた時、安全に飲める量は存在しない(No level of alcohol consumption is safe for our health)」という強いメッセージを発表しました。

  • アルコールは1988年からIARC(国際がん研究機関)でグループ1の発がん物質に分類されている(タバコ、アスベスト、放射線と同じカテゴリ)
  • 少量の飲酒でも口腔・咽頭・喉頭・食道・大腸・肝臓・乳がんのリスクが上がる
  • 「赤ワインは健康に良い」「適量はむしろ寿命を延ばす」といった過去の研究は方法論的な問題(病気で飲酒をやめた人を非飲酒群に含めるバイアスなど)があったことが明らかに

厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月)

日本では2024年2月19日、厚生労働省がはじめての公的飲酒ガイドラインを公表しました。お酒の量を「純アルコール量(g)」で考えることがポイントです。

対象純アルコール量/日リスク
男性40g以上生活習慣病のリスクが高まる
女性20g以上生活習慣病のリスクが高まる
高齢者(65歳以上)純アルコール量に関わらず少量から若年層より影響を受けやすい
妊婦・授乳中1滴も飲まない(ゼロ)胎児性アルコール症候群/母乳移行
未成年(20歳未満)飲酒禁止脳発達への悪影響
アルコール依存症の既往飲酒禁止再発・健康悪化

純アルコール量の早見表

純アルコール量(g)= 飲んだ量(ml) × アルコール度数(%) × 0.8(比重)

お酒の種類一般的な量純アルコール量
ビール(5%)中ジョッキ1杯(500ml)約20g
ビール(5%)350ml缶1本約14g
日本酒(15%)1合(180ml)約22g
焼酎(25%)グラス1杯(100ml)約20g
ワイン(12%)グラス1杯(120ml)約12g
ハイボール(7%)ジョッキ1杯(350ml)約20g
普通のチューハイ(3%)350ml缶1本約8g
普通のチューハイ(5%)350ml缶1本約14g
普通のチューハイ(5%)500ml缶1本約20g
ストロング系チューハイ(9%)500ml缶1本約36g
ウイスキー(40%)シングル(30ml)約10g

女性は1日20g(ビール中ジョッキ1杯、日本酒1合まで)でリスクが上がり始めます。「ストロング系チューハイ1本」だけで男性の生活習慣病リスク域に達する点に注意です。

お酒がもたらす健康リスク(最新エビデンス)

影響内容根拠
がん口腔・咽頭・喉頭・食道・大腸・肝臓・乳がんのリスク増加。少量からリスク上昇。IARC Group 1 carcinogen / Lancet Oncol 2021
脳萎縮・認知症週7〜14ドリンク(≒週100〜200g)でも脳の灰白質体積減少が観察された。Topiwala A. Nat Commun 2022(UK Biobank n=36,678)
高血圧・脳卒中純アルコール30g/日超で高血圧リスク明確に上昇。出血性脳卒中は少量から関連。Lancet 2018 / 厚労省ガイドライン
肝障害脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変→肝がん。1日60g以上で明確にリスク。AASLD 2019
うつ・不眠寝つきは良くなるがレム睡眠が減り中途覚醒が増える。気分の落ち込みも増悪。Sleep Med Rev 2013
痛風・高尿酸血症尿酸産生増加+排泄低下。種類問わずアルコール量で悪化。高尿酸血症・痛風ガイドライン2018
体重・メタボアルコール自体が高カロリー(7kcal/g)。糖質ゼロでも太る。

「少量なら健康に良い(Jカーブ)」はもう古い

昔は「全く飲まない人より少量飲む人のほうが心血管リスクが低い(Jカーブ)」と言われていました。

しかし2022〜2023年の大規模メタ解析で、このJカーブは「健康問題で禁酒した元飲酒者」を非飲酒者群に混ぜていた測定エラーによるものだったと指摘されています。

健康だった頃から一度もお酒を飲まなかった「true 非飲酒者」と比較すると、少量飲酒の有利性は消失することが分かりました(JAMA Netw Open 2023等)。

「お酒を減らしたいけど減らせない」と感じたら

次のような項目に当てはまるものがあれば、「アルコール使用障害」のサインかもしれません。

  • 飲み始めると自分が思っていた以上の量を飲んでしまう
  • 減らしたい・やめたいと思っているのに、できない
  • 飲酒のために仕事や家族との時間が削られている
  • 飲まないとイライラ・手の震え・冷や汗が出る(離脱症状)
  • 飲酒が原因で健康に悪影響が出ているのに飲み続けている

完全にやめる(断酒)の前に、まず「飲む量を減らす(飲酒量低減)」からアプローチする選択肢が、近年広がっています。

飲酒量低減のための薬「セリンクロ(ナルメフェン)」

セリンクロ(一般名:ナルメフェン塩酸塩水和物)は、日本で初めて「飲酒量低減」を目的に承認されたお薬です(2019年)。脳のオピオイド受容体に作用し、お酒を飲んだ時の「もっと飲みたい」「気持ち良い」感覚を弱めることで、結果として飲酒量・回数が減っていきます。

毎日飲む薬ではなく、「飲む予定の日の1〜2時間前」に1錠だけ頓用で使うのが大きな特徴です。従来の抗酒薬(ノックビン・シアナマイド)と違い「飲んだら気分が悪くなる」タイプではありません。

セリンクロの作用機序・効果・飲み方・副作用について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

当院でのセリンクロ処方について(自費)

  • セリンクロは保険適応では「アルコール依存症患者の飲酒量低減」が対象で、専門医療機関での心理社会的治療との併用が必要です。
  • 当院では保険適応外(自費診療)で、「お酒を減らしたいが減らせない」とお困りの方を対象に処方します。
  • オンライン診療で初診から処方可能です(重度のアルコール依存症の方は専門医療機関での治療が優先)。
  • 具体的な料金(初回・継続・送料)はセリンクロ詳細記事をご確認ください。
  • 定期採血(肝機能等)でのフォローアップは当院では行えません。継続服用中は半年〜1年に1回、対面のかかりつけ医で採血を受けてください。
  • 次の方は当院での処方対象外です:オピオイド鎮痛薬使用中/重度の肝障害/妊娠中・授乳中/18歳未満/重度アルコール離脱症状(手の震え・幻覚等)がある方

処方が確定すると、薬局から服薬指導のお電話をしたうえで宅薬便(ポスト投函)でお薬をお送りします。最短で翌日にお手元に届きますが、薬局の服薬指導の枠の状況によっては、お電話やお届けが翌日にずれ込むこともあります。あらかじめご了承ください。

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よくある質問

セリンクロを飲めば断酒できますか?

セリンクロは「飲酒量を減らす」ことを目的とした薬で、断酒(完全にやめる)を目的としたものではありません。

「お酒は完全にやめたい」「ノックビンのように飲酒すると気持ち悪くなる薬が欲しい」という方は別の選択肢(抗酒薬・カウンセリング・専門外来)が向いています。

毎日飲まないといけませんか?

いいえ。セリンクロは「飲酒予定の日だけ、飲む1〜2時間前に頓用」するお薬です。

飲まない日は薬も飲まなくて大丈夫です。毎日服用するタイプの抗うつ薬や抗酒薬とは違う使い方になります。

副作用が心配です

初期に吐き気・めまい・不眠が出ることがありますが、多くは1〜2週間で慣れて軽快します。

症状が強い場合は、最初の数回を半錠(9mg相当)から始める方法もあります。診察時にご相談ください。

保険診療は受けられませんか?

セリンクロの保険診療は「アルコール依存症」と診断された方が対象で、原則として精神科・心療内科の専門医と心理社会的治療がセットで必要になります。

対面でアルコール専門外来や精神科にかかれる方は、そちらでの保険診療をご検討ください。

「依存症レベルではないけれど、自分の飲酒量を減らしたい」という方は当院の自費処方の対象になります。

お酒を減らすために他に自分でできることは?

① 飲酒記録をつける(純アルコール量で記録)

② 「飲まない日」を週2〜3日決める(休肝日)

③ 家にお酒のストックを置かない

④ ノンアルコール飲料を活用

⑤ お腹を空かせて飲まない(食事と一緒に)

⑥ ストロング系チューハイをやめる(同じ量でも純アルコール量が多すぎる)

健康診断で「γ-GTP高め」と言われましたが、それだけで受診すべき?

γ-GTPは飲酒量を反映しやすいマーカーですが、それ単独では肝障害の程度や予後はわかりません。

AST/ALTの上昇、腹部エコーでの脂肪肝、フィブロスキャン(肝硬度)などを併せて評価する必要があります。

定期的にγ-GTPが100を超える、飲酒量が男性40g・女性20g/日を超えている、という方は一度内科で評価を受けることをお勧めします。

もう少し詳しく知りたい方へ

AUDIT(簡易飲酒チェックテスト)について

WHOが開発した10項目の質問票で、自分の飲酒問題の程度を客観的に評価できます。

0〜7点:問題なし/8〜14点:問題飲酒の疑い/15点以上:アルコール依存症の疑い

8点以上の方は飲酒量低減や受診を検討する目安、15点以上の方は専門医療機関の受診を強くお勧めします。

アルコール依存症の専門医療機関について

重度のアルコール依存症(離脱症状あり、生活破綻あり、解毒入院が必要なレベル)の場合は、アルコール依存症専門外来・精神科での治療が必要です。

大阪府内ではアルコール依存症の専門治療を行う精神科病院(新阿武山病院、加納総合病院、堺脳神経外科病院など)や、依存症対策連携拠点機関があります。

断酒会・AA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループも回復に大きな役割を果たします。

参考文献・情報源

  • WHO. No level of alcohol consumption is safe for our health. The Lancet Public Health, January 2023.
  • 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」2024年2月19日
  • IARC. List of Classifications, Vol. 100E (Alcohol consumption — Group 1)
  • Topiwala A, et al. Associations between moderate alcohol consumption, brain iron, and cognition. Nat Commun. 2022;13:6391.
  • GBD 2016 Alcohol Collaborators. Alcohol use and burden for 195 countries. Lancet. 2018;392:1015-1035.
  • セリンクロ錠10mg/18mg 添付文書(大塚製薬)

まとめ

  • 「適量のお酒は健康に良い」は最新研究で否定された
  • WHOは2023年「安全な飲酒量は存在しない」と発表
  • 厚労省ガイドライン(2024):男性40g・女性20g/日を超えると生活習慣病リスク
  • ストロング系チューハイ1本(500ml)で純アルコール約36g=1本で目安超え
  • 「減らしたいけど減らせない」と感じたら、飲酒量低減薬セリンクロという選択肢があります

完全な断酒が難しくても、「飲み過ぎを減らす」だけで脳・肝臓・心血管リスクは大きく改善します。お一人で抱えず、まずは一度ご相談ください。

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この記事の監修者

原 達彦
原 達彦梅田北オンライン診療クリニック 院長
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
現在は京都大学大学院(社会健康医学系専攻)に在籍し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/
産業医科大学産業医学ディプロマ/日本東洋医学会/JATEC・ACLS・AMLS修了 ほか
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