精神的に疲れて眠れない…病院で処方される「加味帰脾湯(かみきひとう)」ってどんな薬?

精神的に疲れて眠れない…
病院で処方される「加味帰脾湯(かみきひとう)」ってどんな薬?

精神的に疲れて『加味帰脾湯』を使っています。

加味帰脾湯は、体力低下・血色不良・不眠・不安などが重なる方に適した処方

加味帰脾湯はオンライン診療で処方可能です。

この記事では、公的資料を参考に薬の特徴をわかりやすくお伝えします。

加味帰脾湯(かみきひとう)とは

加味帰脾湯は、漢方の古典『済世全書(さいせいぜんしょ)』に記載された処方をもとに作られた医療用漢方薬です。

含まれる14種類の生薬

  • オウギ(黄耆)
  • サイコ(柴胡)
  • サンソウニン(酸棗仁)
  • ソウジュツ(蒼朮)
  • ニンジン(人参)
  • ブクリョウ(茯苓)
  • リュウガンニク(龍眼肉)
  • オンジ(遠志)
  • サンシシ(山梔子)
  • タイソウ(大棗)
  • トウキ(当帰)
  • カンゾウ(甘草)
  • ショウキョウ(生姜)
  • モッコウ(木香)

代表的な成分には以下があります:

  • サイコサポニン類(b1・b2)
  • ギンセノシド類(Rb1・Rg1)
  • ゲニポシド
  • グリチルリチン酸
  • ショーガオール

加味帰脾湯の特徴

古典処方を現代医療用に製剤化

『済世全書』の処方をもとに、昭和60年5月31日付の厚生省通知に基づき製造承認された、医療用漢方製剤です。

身体と心の両面に働きかける処方

体力低下・血色不良・不安・不眠といった症状に対して、
「脾(ひ)」の機能(消化吸収)を支えつつ、精神面にも作用します。


効能・効果

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:
貧血、不眠症、精神不安、神経症

※体質(証)を見極めて使う薬です。改善が見られない場合は継続投与しません。


有効性(試験データ)

薬効薬理試験において、抗不安様作用が確認されています。

動物実験による検証結果

  • 反復寒冷ストレスモデル
     → 痛覚過敏を改善、腸管のアセチルコリン反応性低下を防止
  • 更年期様Hot flushモデル(卵巣摘出ラット)
     → 尾の皮膚温上昇・直腸温低下を抑制

代表文献

  • 松田理英ほか(1992年)
  • 島村美智枝ほか(1997年)

※いずれも前臨床(動物)での知見。ヒトの大規模臨床試験データは記載されていません。


用法・用量

  • 成人:1日7.5gを2〜3回に分けて、食前または食間に服用
  • 年齢・体重・症状により増減します

※長期服用は、副作用や効果の判定を見ながら医師が適切に判断します。


使用できない方(禁忌)

※添付文書上は「禁忌」明記なし。ただし、以下は注意が必要です。

  • 食欲不振・悪心・嘔吐がある人(悪化する恐れ)
  • 妊婦・妊娠の可能性がある人(有益性が上回ると判断された場合のみ)
  • 授乳中(授乳の継続可否を検討)
  • 小児(臨床試験なし)
  • 高齢者(生理機能低下に配慮し減量等)

長期服用でのリスク

  • 腸間膜静脈硬化症(ちょうかんまくじょうみゃくこうかしょう)
     → 特に5年以上の長期使用で報告あり。CT・内視鏡などの定期検査を検討します。

飲み合わせに注意が必要な薬(相互作用)

以下の製剤との併用は注意が必要です。

偽アルドステロン症やミオパチーのリスク増

  • カンゾウ(甘草)含有製剤
     例:芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散 など
  • グリチルリチン酸含有製剤
     例:
     ・グリチルリチン酸一アンモニウム+グリシン+L-システイン
     ・グリチルリチン酸一アンモニウム+グリシン+DL-メチオニン配合錠

→ 併用時は血清カリウム値や血圧を定期モニタリング
他の漢方との併用時は生薬成分の重複にも注意します。


副作用と発生頻度

重大な副作用(頻度不明)

  • 偽アルドステロン症
     むくみ、急な体重増加、血圧上昇、だるさ、こむら返り
  • ミオパチー(筋障害)
     筋力低下、けいれん、まひ感
  • 腸間膜静脈硬化症(長期投与)
     腹痛、下痢と便秘を繰り返す、腹部のはり、便潜血など
     → 異常があればすぐに服用中止・受診を。

その他の副作用(頻度不明)

  • 過敏症状:発疹、じんましん
  • 消化器症状:食欲不振、胃の不快感、悪心、腹痛、下痢 など

検査値への影響

  • アンヒドロ-D-グルシトール
     → 血中で上昇することがあり、糖代謝の検査値に影響する可能性があります。

まとめ

  • 加味帰脾湯は、体力低下・血色不良・不眠・不安などが重なる方に適した処方
  • 抗不安様作用などの前臨床データあり。
  • 甘草系との併用に注意し、低カリウム血症・むくみ・血圧上昇に警戒。
  • 長期使用では腸間膜静脈硬化症リスクに留意。
  • 定期的な効果確認と副作用チェックが大切。

受診の目安

  • 夜の不眠や不安が続く
  • 体力低下とともに息切れ・めまい・ふらつきがある
  • むくみ・血圧上昇・こむら返りが出てきた

自己判断で継続せず、早めの受診をおすすめします。

医師からのひとこと

「眠れない」とき、原因は単なる不眠症だけでなく、体の疲れ・心の乱れが背景にあることが多いです。

当院では、患者さまの体質や日常の疲れ具合を丁寧に見極めたうえで、最適な漢方薬をご提案しています。
気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。


参考文献・出典

添付文書・公的データベース

薬効薬理に関する論文

  • 島村美智枝ほか, 和漢医薬学雑誌, 14, 219–226, (1997) → 更年期障害モデルにおける作用
  • 松田理英ほか, 日本薬理学雑誌, 100, 157–163, (1992) → 抗不安作用に関する動物実験データ

よくある質問(Q&A)


この薬の同じ系統の既製薬品に対する強みは?

加味帰脾湯(かみきひとう)は、帰脾湯に「柴胡(さいこ)」と「山梔子(さんしし)」を加えた処方です。

  • 帰脾湯が主に「脾(消化吸収機能)と心(精神面)」を補うのに対し、
  • 加味帰脾湯は精神不安・不眠・イライラといった「肝(かん)の亢進」にも対応する処方です。

強みまとめ:

比較項目帰脾湯加味帰脾湯(本剤)
対象症状貧血・疲れ・不眠など精神不安・イライラなど
特徴生薬柴胡・山梔子なし柴胡・山梔子あり(抗ストレス・鎮静的)
適応の幅胃腸虚弱中心こころと身体の両面に対応

加味帰脾湯の先発薬はいつ発売された?

ツムラ加味帰脾湯エキス顆粒(医療用)は、昭和60年(1985年)に厚生省通知(薬審2第120号)に基づき製造承認されました。
もともとの古典処方は『済世全書』に記載されています。

1か月(30日)処方時の薬価と実際の自己負担額の目安は?

ツムラ製(医療用)の薬価は1gあたり26円です。

  • 1日量7.5g × 30日 = 225g × 26円 = 5,850円
  • 自己負担(3割負担)の目安 → 約1,755円/月

※薬局調剤料や診察料等は別途かかります。

加味帰脾湯の作用発現時間や効果の持続時間は?

漢方薬のため即効性は一般的に期待されにくいものの、個人差が大きく、1〜2週間で効果を実感する方もいます
効果持続時間に明確なデータはありませんが、継続的な服用で徐々に改善する処方です。

妊娠中に加味帰脾湯は使える?リスクは?

添付文書では、「妊婦または妊娠している可能性のある女性には、有益性が危険性を上回る場合のみ投与すること」とされています。

明確な催奇形性リスクの報告はありませんが、柴胡・山梔子など、流産リスクやホルモン系への影響が指摘される生薬も含まれるため、自己判断での使用は厳禁。医師と相談が必須です。

授乳中に加味帰脾湯を使っても大丈夫?

添付文書には、
「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討」とされています。

成分が母乳に移行するかどうかの具体的なデータはありません。

理論上、グリチルリチン酸など一部成分の移行の可能性は否定できず慎重投与 or 医師と授乳一時中止を含めた判断が望まれます。

子どもに加味帰脾湯を使ってもいいの?

小児を対象とした臨床試験は実施されていません。

自己判断・市販品の代用は避けるべきです。

年齢に応じて用量調整が可能な場合もありますが、基本的には医師が「証(体質)」を十分に確認した上で慎重に使用します。